11月の米大統領選に向けた主要候補のテレビ討論会が10日夜(日本時間11日午前)、東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれた。ABCニュースが主催。民主党のカマラ・ハリス副大統領(59)と共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)が休憩を挟んで約1時間45分間、経済や移民、人工妊娠中絶、外交などについて論戦を交わした。
両候補は今回の討論会が初対面だった。冒頭で演壇に直接向かったトランプ氏にハリス氏が歩み寄り、「カマラ・ハリスです。良い討論にしましょう」と手を差し出し、トランプ氏も「お会いできてうれしい。楽しもう」と握手に応じた。その後、司会者2人の質問に両候補が順に答えた。
ハリス氏は「新たな世代のリーダーシップをもたらす。ページをめくろう」と世代交代を強調。7月に選挙戦から撤退したジョー・バイデン大統領(81)の主要政策を引き継ぎながら、候補の若返りを生かして「未来への新たな道」を訴えた。
「私は中間層の家庭で育った。この壇上にいて、米国の中間層や労働者を引き上げる計画を持っているのは私だけだ」と強調。子育て世帯への税制優遇策や住宅購入支援の具体策を訴える一方で、大企業や富裕層への増税を提唱した。
また中絶を選ぶ権利を擁護する姿勢も強調し、トランプ氏を「国民を気にかけるよりも、自分自身を守ることに関心のある人物だ」と糾弾した。
一方、トランプ氏は「なぜハリス氏は副大統領として、今回主張する政策を実行してこなかったのか」と批判。インフレや不法移民の急増、米国の国際的な威信低下などを挙げて、「米国の衰退は深刻で、世界中の笑いものになっている」と述べた。
「不法移民の大半は犯罪者だ。中西部オハイオ州で(ハイチ人の)移民がペットの犬や猫を食べている」との陰謀論も展開し、「彼らを追い出さないといけない」と不法移民の国外追放を訴えた。
トランプ氏は主張内容に新味が乏しい一方で、前回大統領選の敗北を認めていない点や中絶政策を巡る主張の変遷を司会者に追及され、釈明に追われる場面も目立った。
討論会直後に米CNNが視聴した有権者605人を対象に行った緊急世論調査では、ハリス氏の方がトランプ氏よりも良いパフォーマンスを見せたと回答した人が63%に上り、トランプ氏を選んだ37%を大幅に上回っていた。ただ選挙は接戦の7州を中心に情勢は流動的で、今回の討論会が投票行動にどの程度影響を与えるかは不透明だ。
今回の選挙戦は当初、2020年大統領選に続くバイデン、トランプ両氏の再対決の構図だった。しかし、バイデン氏が6月の討論会で高齢不安を露呈し、党内からの圧力を受けて7月に出馬断念を表明。8月にハリス氏が党候補指名を受け、約3カ月間の異例の短期決戦に突入した。【ワシントン秋山信一】