織田信長ゆかりの寺で、2022年に解体された「久昌寺」があった愛知県江南市の名鉄布袋駅近くに、信長と側室・吉乃(きつの)、3人の子供の銅像が完成した。「第六天魔王」と恐れられ、勇猛果敢な武将として知られる信長だが、娘を抱き穏やかな表情を見せる“イクメン”としての意外な姿を見せている。
吉乃は地元有力者だった生駒家3代家宗の娘。諸説あるが、信長の側室となり長男信忠、次男信雄、長女徳姫をもうけたとされる。徳姫は後に、徳川家康の長男信康の妻となった。久昌寺は1384年に創立された生駒家の菩提(ぼだい)寺で、吉乃の戒名から現在の名に改められた。
信長は正室・濃姫との間に子供がおらず、吉乃は織田家の中で存在感があったとみられる。若くして亡くなったとされ、冷酷非情とされる信長がその死に涙を流して惜しんだとも伝わる。
銅像は元檀家(だんか)総代ら有志の「銅像を建立する会」が、同市の子育て支援推進や歴史・文化のシンボルとして計画。子育て支援センターなどが入る市の複合施設前の市有地に完成した。自然石を積み上げた「野面積み」の手法でできた石垣の台座も含め高さ約3・8メートル。
信長像は家族に囲まれ、穏やかな表情で徳姫を抱いており、優しさや知られざる人間性を表現している。JR岐阜駅前(岐阜市)やJR安土駅前(滋賀県近江八幡市)など各地に信長像はあるが、多くは勇ましい姿で、家族とくつろぐ信長像は珍しい。
建立する会の土田守彦代表は「信長の知られざる一面を考察させる歴史散策の始発駅として、布袋駅を全国に発信したい」と意気込む。
信雄の直系にあたる織田家18代当主、織田信孝さんは「家族の像とは独創的。歴史ファンのみならず、多くの人から、江南市の新たな文化資産として愛されることを祈る」とコメントしている。【川瀬慎一朗】