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京都・産寧坂の倒木は防げた? 「切ってもいいか」所有者過去に相談


 あの桜が倒れてから1カ月が過ぎた。予想だにしなかった事態で事件化は見送られる公算だが、事故は防げなかったのか。関係者を取材すると、著名な観光地ならではの事情が見えてきた。

 京都市東山区にある世界遺産、清水寺近くの産寧坂(さんねいざか)で4月23日、しだれ桜が倒れた。通行人の男性が下敷きになり、重傷を負った。事故が報じられると、SNS(ネット交流サービス)でも「産寧坂のあの桜が」と話題になった。

 府警などによると、男性は当時の状況について「後ろでボキボキという音がした。振り返ると木が倒れてきた」と説明。男性は三重県の高校教諭で、この日は遠足の引率で京都市内を訪れていた。自由行動中だった生徒を見守っているさなかに倒木に見舞われた。

 捜査関係者によると、倒木は予見可能性が低かったことなどから、府警は立件は見送る方針だ。

 倒れた桜が立っていたのは産寧坂沿いにある飲食店の敷地内だった。周辺の店舗などによると、桜は100年以上前からあったといい、永く親しまれてきた。近年は桜をバックに観光客らが写真を撮る「映えスポット」に。この春も、インバウンド(訪日外国人)らが列をなし、スマートフォンを手にポーズをとった。

 倒れる予兆はなかったのか。桜のある敷地を所有する会社は取材に応じなかったが、2017年に売り渡すまで約40年近く所有していた会社社長の岩井彬さん(82)が5月末、倒木について初めて口を開いた。「折れたこと自体にびっくりした。(男性がけがをして)非常に残念だ」

 岩井さんが敷地を購入したのは1980年代初頭。すでに桜はあったが半分ほどの大きさで、坂にかかることなく、木はまっすぐに生えていた、と振り返る。植木屋に依頼して年に一度、10~20万円かけて枝の手入れをしていたという。

 京都市によると、2023年10月ごろ、現所有者側からある相談が持ちかけられたという。「(桜を)切ってもいいものか」。どういうことなのか。

 桜のある産寧坂は、伝統的建造物群保存地区(伝建地区)に指定されている。伝建地区は、歴史的な集落、町並みを保存するために市町村が定める。地区ではいくつかの行為に市の許可が必要で、木の伐採もその一つ。市によると、所有者側の伐採打診の理由は、維持費の問題だったとみられる。

 伝建地区には保存のために公的な助成制度がある。建造物の修理も対象で、さらに景観の一部となる樹木や石は「環境物件」として指定されると、助成も一部認められる。しかしあの桜は環境物件ではなかった。

 所有者側からの相談に対する京都市の返答は「切ってもよいです」。ただ実際には切られることはなかった。理由は不明だという。今年の春も桜は花を咲かせ、道行く人の目を楽しませた。花が散り、緑の葉になった矢先、前触れなく木は突如倒れた。

 倒れた桜が撤去されるのを目撃した住民らによると、幹の断面には腐った様子や空洞は無かったという。府立植物園の樹木医を務める中井貞さんに聞くと、桜はもともと木の内部が腐りやすい植物。60~70年たつと腐朽菌によって腐り、木を支える力が弱くなる特性がある。ただ、根を伸ばすことができるだけの十分なスペースに加え、支柱を立てるなどの対策を行えば、何百年と生き続けることもできる。しかしこうした対策は、根を伸ばすスペースの少ない街路樹などでは難しく、実際には伐採されるケースも多いという。

 倒れた桜について中井さんは、立っていたのが産寧坂近くの狭い敷地内だったため、「根が張れる土地が少ないことがリスクなったのでは」と分析する。

 では、どうしたら防げたのか。公的機関が所有、管理する街路樹は危険度診断も受けられるが、個人所有の木の維持、管理は個人負担になる。中井さんは「桜の手入れにはばかにならないほど、お金も人も組織も必要になる」とその難しさを語る。

 市によると、伝建地区に指定後、地区内の木などを環境物件に追加する例はなく、あの桜を維持するための費用に公的助成が入ることはなかったとみられる。

 敷地を手放した岩井さんは桜を切ることは考えたこともなかったと言い、こう指摘する。「(あの桜は)名所みたいになっていた。風が吹いても大丈夫かとか、樹木医による診断、補助を行政の方で検討してもよかったのではないか」

 行き交う人たちを引きつけてやまなかった桜はもう今はない。産寧坂を道行く人たちは来春、あの桜がない中で何を思うだろうか。【林田奈々、日高沙妃】

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