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悩みすぎて電柱追突…大ヒットのUCC「食べるコーヒー」開発の裏側


 見た目は板状のチョコレート、食べたらコーヒー。UCC上島珈琲が2023年秋に数量限定で販売を始めた「食べるコーヒー」に注文が殺到した。構想から20年以上の歳月を要したヒット商品はなぜ受けたのか。そしてなぜ「飲む」ではなく「食べる」なのか。5月に創業91年を迎える老舗コーヒーメーカーの挑戦の裏側を探った。

 3月、神戸市中央区の神戸本社に併設される「UCCイノベーションセンター」を訪ねた。18年から稼働する研究開発の施設だ。

 商品は「YOINED(ヨインド)」。コーヒーの余韻を楽しんでもらいたいという思いが込められている。表面に幾層もの波が刻まれた円形にしたのは、コーヒーに浸る際に漂うゆったりとした雰囲気を表現するためという。

 エチオピア産の豆を使用。約23粒分の豆を1枚に凝縮させたコーヒー豆配合量40%の「CRAZY BLACK(クレージーブラック)」と、同15%の「MELLOW BROWN(メローブラウン)」の2種類がある。

 製造数量は非公表だが、それぞれ3枚が入った計6枚セットの2700円(税込み)で23年11月から販売したところ、予定した24年3月末を待たずに2カ月前倒しで完売した。

 私(記者)が試食すると、同社のコーヒーと同じような苦みや酸味が口に広がり、芳醇(ほうじゅん)な香りが鼻を通り抜けた。むしろ、飲むよりも味や香りが長続きすると感じた。

 1996年に入社してから商品開発に携わってきた、R&D本部研究開発部の担当課長、岩井和也さん(52)は「コーヒーの抽出かすには味や香りが残っていて、いかにそのロスをなくすかが課題だった」と明かす。

 こうした課題の克服は90年代後半から始まり、硬い豆を焙煎(ばいせん)してからより細かくする必要があった。香りを持続させるための製法を次々と生み出してきたが、豆に含まれる油脂の粘りが影響し、より細かくするのに難航した。

 ヒントはコーヒー以外の商品にあった。まずは漢方薬で用いられる、マイナス196度の液体窒素で凍結する手法に着目。凍らせた後に豆同士を高速でぶつけることで、人間の舌が味覚を感じられる限界の20マイクロメートルまで細かくできた。

 もう一つが、外資系飲料メーカーが欧米を中心に過去に販売した、チューブから練り出すココアだった。同じように、コーヒー粉末と豆から抽出される「コーヒーオイル」を混ぜてから植物油脂でコーティングすることで、豆本来の香りを閉じ込める製法を編み出すことができた。

 だが、そうすると粘り気が強く、お湯を注いでも喉越しが悪い。熟慮した結果、豆本来の味や香りを堪能するのに「飲む」という固定観念を捨てることに決めた。2021年3月にはこの技術が特許として認められた。

 岩井さんは「(過去に退職した)上司が悩みすぎて、帰宅途中に電柱に気付かず追突してしまったほどでした」と苦笑いする。失敗を繰り返してはノートに記録し続けていたのが実を結び、「諦めかけた時期もあったが、ここまでの人気が出て夢のようです」と目を細める。

 その後、ブランディングやサプライチェーン(供給網)を検討するプロジェクトが設置され、1年かけて販売にこぎつけた。

 価格設定を割高にした影響で、社内から「売れるの?」という不安の声が出たり、顧客の反応を予測できなかったため広告を出さなかったりした。だが、予想に反して通販の先行予約から購入希望が殺到した。

 評判は口コミで広がり、「一口入れた瞬間にコーヒーの味と香りがガツンときた」「コーヒー好きにぜひ勧めたい」といった声が寄せられたという。

 サステナビリティ経営推進本部EC推進室の担当課長、小坂朋代さん(39)は「コーヒー好きの方々に受け入れられ、普段は知られざる研究員の熱意が伝わったのがうれしかった」と話す。販売数を増やし、24年冬に再販する予定という。【山本康介】

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