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「優しそうなお兄さんが…」我が子を性被害から守るためにできること


 「これは性教育なんだよ」――。塾やスポーツクラブの指導者らによる子どもへの性加害が後を絶たない。言葉巧みに手なずける手口は「性的グルーミング」と呼ばれ、旧ジャニーズ事務所の性加害問題でも注目された。新生活が始まる春に向け、保護者は何に気を付ければいいのか。精神保健福祉士の斉藤章佳さんに聞いた。【西本紗保美、平塚雄太】

女の子だけでなく男の子も被害に

 ――性的グルーミングとは何ですか。

 ◆大人が子どもに性的な目的で近づき、信頼関係を築いてから性加害に及ぶ手法のことです。子どもに関わる仕事をしている大人が加害者になることもあるほか、SNS(ネット交流サービス)やオンラインゲームを通じて知り合った子どもに裸の画像を送らせたり、初対面で言葉巧みにトイレの個室に誘い込み、体を触ったりするケースもあります。女の子だけでなく、男の子も被害に遭います。

 ――加害者をどう見分ければいいのでしょうか。

 ◆私の勤務先のクリニックに通う子どもへの性加害経験者のうち約3割は、子どもと関係のある職業に就いていました。彼らは物腰が柔らかく、スマートに、性的意図を隠しながらターゲットに近づきます。子どもからは「優しそうなお兄さん」に見えるでしょう。見た目では判別できないのです。

子どもの心を支配する「マジック」

 ――加害者はどのように子どもを手なずけるのでしょうか。

 ◆米国の研究で、五つのプロセスが示されています。

 ①まずはターゲットの選別です。自尊心が低い、孤立している、貧困状態にある、「父親」的な存在を求めている――など、性被害に遭っても周囲に助けを求めにくく、手なずけやすい子どもの性格や家庭環境に目を付けます。

 ②子どもに近づくため、スポーツや習い事で指導的立場に就いたり、子どもと接する職場で働いたりします。「家族は君のことをわかっていないね」などと吹き込んで、周囲と引き離そうとします。

 ③子どもを褒める、ゲームの有料アイテムをプレゼントする、恋愛感情を利用する――など特別感を演出しながら、信頼関係を発展させます。

 ④少しずつ性的な発言をしたり、膝に乗せたりして、子どもの感覚をまひさせます。「これは性教育だ」などの理由を付け、ゆがんだ価値観を刷り込むこともあります。

 ⑤性加害後に「お母さんが悲しむから言ってはだめ」と口止めしたり、金銭を手渡したりする場合があります。「アメとムチ」を巧妙に使い分け、子どもの心を支配するのです。私はよく、「加害者はマジックを使う」と表現しています。

 ――なぜ、子どもの信頼を勝ち取れてしまうのでしょうか。

 ◆彼らはカウンセラー並みの傾聴力を持っています。子どもの悩みを受け止め、「それはつらかったね」「君は悪くないよ」などと相手を絶対に否定せずに共感的理解を示し、根気強く信頼関係を構築していきます。

 日ごろから親の注意や声がけを「口うるさい」と感じる子どもや自尊感情が傷ついている子どもにとっては、加害者が「唯一の理解者」になり得てしまいます。

 オンラインで被害者と初めて接触してから、実際に会って性加害に及ぶまで、5年間かけた人もいました。ただ、その傾聴の裏には、子どもと性行為をしたいという願望が潜んでいます。

大切なのは親子のコミュニケーション

 ――身近な場所にリスクがあるとすれば、保護者はどうすればいいのでしょうか。

 ◆難しいのが、子どもが加害者と1対1になるタイミングです。保護者が直接介入できず、狙われやすいのです。(旧ジャニーズ事務所創業者の)故ジャニー喜多川氏は、母子家庭や地方出身者など、経済的な問題を抱えて事務所に依存しがちな少年らをターゲットに、性加害をしていたと指摘されています。

 「子どもと2人きりになろうとする大人には気を付けて」「トイレは死角が多くて危ないよ」と、子どもに危ない状況を具体的に教えることが有効ではないでしょうか。

 また、親や身近な大人から肯定してもらえず寂しさを抱えている子は、自分に関心を向ける大人に心を開きやすく、加害者のターゲットにされるリスクがあります。被害の未然防止や早期発見には、加害者側の特性を知ることと、親子の基本的なコミュニケーションが大切です。

 注目したいのが、心身の健康や人権についても幅広く学ぶ「包括的性教育」です。水着で隠れる「プライベートゾーン」を人に見せない、触らせないなどの知識のほか、性的同意や性的自己決定権について親子で学ぶことが重要です。

 ――もし子どもが性被害に遭ったら、どうすればいいのでしょうか。

 ◆子どもの性被害で、親の心も深く傷つきます。パニックになってしまうあまり、被害を否定するようなことを言いたくなるかもしれません。ぐっとこらえて、まずは冷静に子どもの話を聞き、(性被害について相談できる)ワンストップ支援センターなどの専門家を頼ることが重要です。

斉藤章佳(さいとう・あきよし)さん

 1979年生まれ。大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)精神保健福祉部長。性加害経験のある小児性愛障害者の再犯防止プログラムに取り組む。近著に「子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か」(幻冬舎)。

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