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虐待、連れ去り…「恐怖でしかない」 被害高校生、共同親権に不安


 離婚後の父母双方に親権を認める「共同親権」の導入を盛り込んだ民法改正案が14日、国会で審議入りした。政府は「子の利益」のために離婚後も父母が協力することなどを狙いとして掲げるが、家庭内暴力(DV)や虐待への懸念から反対の声も根強い。「もし共同親権だったら……」。幼少期に父のDVが原因で両親が離婚した北海道内の男子高校生は、導入へ不安を募らせる。

 男子高校生の幼い頃の記憶は、父の顔色をうかがい、おびえて暮らす日々のことばかりだ。夕食時、「ママ、ご飯おいしいね」と言うと、父は急に「飯を食わせてやってるのはオレだ!」と逆上。母は胸ぐらをつかまれ部屋中をひきずられた。「てめえらに自分の意思なんていらない」。罵声で人格を否定され、心を塞いだ。

 DVに耐えていた母はやがて離婚を決意し、調停を申し立てた。父と離れて母とともに暮らし始めた。

 父は離婚に合意したふりをし、子供に会いたいと申し出た。「数時間だけ」との約束で会いに行くと、車に乗せられ、帰らせてもらえなくなった。父は「調停を取り下げたら息子に会わせてやる」と母を脅した。「人質」として扱われ「ママに一生会えないんじゃないか」と恐怖でいっぱいになった。

 両親の離婚後、親権は母が持つことに。父には「絶対に会いたくない」と調停官に言い続けた。だが10歳に満たない子供の意見は「母に誘導されている」とないものにされた。

 学校へは誘拐を心配した母が毎日送迎してくれ、外で遊んでいても父のものと似た車が通ると隠れた。ストレスで、心療内科の通院が欠かせなくなり、毎年、連れ去られた時期が近づくと苦しさがよみがえった。

 長い調停の末、父との面会は一切しなくていいという結論が出た。今も傷は残るが、安心した生活を送る中で将来の目標もできた。だからこそ「もし共同親権だったら」と思うと絶望感に襲われる。

 共同親権の場合、子供の重要事項決定には双方の合意が必要だ。合意できず、裁判所の審判を待つ場合もある。「進路の同意書のサインを拒むだけで子供の将来をねじ曲げられる。直接サインする、と面会の口実に利用されるかも。連れ去りを経験した自分にとっては恐怖でしかない」

   ◇

 民法改正案が成立すれば、離婚後は父母の一方の単独親権とする現行規定が見直される。父母は離婚後に共同親権とするか、単独親権とするかを協議し、意見が対立した場合は家裁が判断する。

 子の最低限度の生活に必要な養育費を請求できる「法定養育費」制度や、調停・審判手続き中に家裁が試行的に親子交流を促す制度も新たに盛り込まれ、養育費が支払われないケースが減ることなどを期待する声もある。

 ただ、DV被害や家庭裁判所の実情を知る機関などからは、改正案のリスクを問題視する声が上がる。

 札幌弁護士会は「かえって子の利益を害する」として昨年に2度、反対の意見書を法務省に提出。3月8日にはNPO法人「女のスペース・おん」、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ北海道」と共同で反対声明を発表した。

 反対派の意見も踏まえ、新制度はDVや虐待のおそれがある場合は家裁が共同親権を選択できないよう規定する。だが、言葉や態度で相手を追い詰める「精神的DV」のような見過ごされやすいケースも含めて対応できるかどうかは不透明だ。

 同会などが11日に札幌市内で開いた記者会見で、山田暁子弁護士は「DVや虐待は証拠が残りにくく、裁判所が認定できないケースが今でも多い」と指摘。「信頼関係を失い離婚した父母が、進学先や病気の治療法など子供の重要な選択を円満に決めるのは難しい」と制度そのものへの疑問を投げかける。

 しんぐるまざあず・ふぉーらむ北海道の平井照枝代表は、改正案が監護者の指定を必須としていない点に言及。「児童を監護する一人親に与えられる児童扶養手当は、監護者が不明確な場合に受給されるのか。そうした点が何も明らかになっておらず、当事者は不安を抱えている」と拙速な議論に警鐘を鳴らす。【後藤佳怜】

札幌弁護士会などの共同声明の要点

①子供の重要な決定が遅れるリスク

 協議が難しい場合は裁判所が判断するが、現状、調停には半年以上かかる。家裁がパンクしたり、審理が不十分になったりする恐れがある。

②DVや虐待の見逃し、悪化のリスク

 証明が難しいDVや虐待が除外されず共同親権になる可能性や、別居親が訴訟を起こし続けるなどのリーガルハラスメントが増加する恐れがある。

③単独親権行使の例外事由が不明確

 「子の利益のために急迫な事情」「監護および教育に関する日常の行為」は単独親権行使が可能とされるが、範囲が不明確。DVでの子連れ別居も「急迫」と認められなければ違法とされる恐れがある。

④子の監護者指定を必須としていない

 養育費の義務者が不明確になる。「一人親手当」などの受給資格が認められず、実際に子を監護する親が困窮する恐れがある。

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