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北海道の「赤ちゃんポスト」 議論かみ合わぬまま、間もなく2年


 親が育てられない乳児を受け入れる北海道当別町の民間施設「ベビーボックス」(赤ちゃんポスト)を巡り、運営者と道の間で摩擦が続いている。道は受け入れの中止を要請したが、運営者は孤立出産した人に「寄り添いたい」とサービスを続ける。行政に監督や処分の権限がなく事態に進展は見られない。【片野裕之】

道「中止を」権限なく 運営者「ニーズ高い」

 カラフルな壁に囲まれ、おもちゃがあふれる民家の一室。ベビーボックスを運営する市民団体「こどもSOSほっかいどう」の坂本志麻さん(49)は養子縁組した乳児を抱き、「内密出産のニーズは高い」と力を込めた。

 ベビーボックスは2022年5月の開設。親が育てられない乳幼児を誰にも知られずに小部屋に置くことができ、市民団体が預かる。これまでに親と対面して4人の乳児を受け入れたほか、道内外から延べ80人ほどの相談を受けた。

 道は施設に医療提供体制がないことを問題視。23年秋までに計22回、乳児受け入れの自粛を要請した。市民団体は24時間いつでも乳幼児を置くことができた運用を変更。23年10月に事前予約制のみに切り替えている。

 ベビーボックスが今年1月、医療機関未受診の新生児2人を預かったことを受け、道は改めて市民団体に受け入れの中止を要請した。未受診の出産は高いリスクをはらんでいる▽母親に対して「養育したい」という意思を十分に確認していない▽行政などとの意思疎通を阻む働きかけを行っている--と批判している。

 実際にこのときは坂本さんの119番で新生児が救急搬送された。病院が受け入れる際に「児童相談所が一時保護する」という手続きを踏まなければならず、道は「すぐに医療が関われなかった」と指摘する。

 これに対して坂本さんは、身元を明かさなければ受けられない行政機関と医療機関の手続きからこぼれる人たちの受け皿というベビーボックスの側面を強調する。「相談者に『行政への抵抗感がない』と道が考えていることが課題だ」と反論。乳幼児の受け入れは今後も事前予約制で続けるという。

 母親の養育の意思や行政などとの意思疎通の阻害について、道と坂本さんの見解は食い違い、議論は平行線になっている。

 ただし、坂本さんは道が22年12月に開設し、匿名でも相談を受け付けている「にんしんSOSほっかいどうサポートセンター」の事業について理解を示す。相談者の同意がある場合、センターにつなぐ方針だ。

専門家も見解分かれる

 孤立出産せざるを得ない女性をどのようにサポートするのか。生まれた子どもの生活の支援は――。赤ちゃんポストのあり方について、専門家に見解を聞いた。

 子どもの遺棄や殺害などを減らそうと、2007年に全国で初めてとなる赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を設置した熊本市の慈恵病院。蓮田健院長は「孤立出産した女性はパニックを引き起こし、事件につながる」として、その必要性を強調する。

 相談先のない女性は選択を誤るケースがある。「子どもが道端に放置されるよりも、誰かが保護して救急車を呼ぶという発想が大事。医療者がいるかどうかを考えていたら設置は進まない。行政は足りないところばかりに目を向けるのでなく、母子のよりどころがあることを歓迎して連携すべきだ」と訴える。

 また、病院による赤ちゃんポストの設置が進まない要因の一つに運営費を挙げる。慈恵病院の場合、年間約500万円の寄付があるものの、24時間の相談体制を維持する人件費などに年間約3000万円かかり、病院にかかる負担が大きいとも明かした。

 一方、「ゆりかご」の効果や課題についての検証報告書をまとめた熊本市の専門部会元会長の山縣文治・関西大教授(子ども家庭福祉)はベビーボックスに対して、医療面でも保育面でも「体制が不十分」とする立場だ。

 ベビーボックスを巡る道の動きについては「『要請』は遅きに失した。養育につながるまでのプロセスが危険で、一時的な運営停止を求める行政指導が必要」とみる。道による専門家委員会の設置を提案した。

 ただし、行政が匿名で相談を受ける「駆け込み寺」となることの難しさも指摘する。山縣教授は「行政が前面に立つと、行政を嫌がる人に情報が届かなくなってしまう。行政の『におい』がしない窓口のあり方が大事だ」と話した。

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