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バイデン氏支持からトランプ氏に鞍替え 黒人女性、苦境の選択


 11月の米大統領選に向けて、共和党のドナルド・トランプ前大統領(77)が、民主党のジョー・バイデン大統領(81)を支持してきた黒人有権者の切り崩しを図っている。2人が対決した2020年大統領選では黒人の約9割がバイデン氏を支持したが、黒人が重視する政策の成果に乏しく「バイデン離れ」が指摘されているためだ。白人至上主義を擁護するような言動を繰り返してきたトランプ氏は、本当に黒人の心をつかめるのか。【ロックヒル(サウスカロライナ州)で秋山信一】

民主党支持が「当たり前」だった

 南部サウスカロライナ州の共和党予備選を翌日に控えた2月23日、州北部ロックヒルで開かれたトランプ氏の選挙集会には開場前から数千人の行列ができていた。「トランプ氏こそ唯一の希望だ。偉大な米国を取り戻してくれるはずだ」。前の方に並んでいた黒人女性のアダマ・ダイヤモンドさん(66)は笑顔で語った。

 中西部イリノイ州シカゴで1958年に生まれた。幼少時の街の景気は良かったが、高校を卒業する頃には街をにぎわせていた個人商店は大型小売店の進出で苦境に陥った。州外の大学で学び、結婚。離婚を契機に84年にシカゴに戻ると、黒人街の荒廃が進んでいた。「近所の黒人男性の多くが犯罪者か、薬物中毒者になっていた。ギャングの言うことを聞かないと、安全も保証されなかった」

 選挙ではずっと民主党を支持してきた。黒人社会には「リベラルな政策や公的支援を重視する民主党を支持するのが当たり前だ」という雰囲気がある。だから候補の資質や政策の違いを吟味することもなかった。しかし、12年に当時のオバマ大統領が同性婚支持を表明した時、「キリスト教の信仰に反する」と感じ、投票先を考えるようになった。

 16年の大統領選で初めて共和党のトランプ氏に投票した。出身地シカゴは民主党の主導で16年の夏季オリンピック招致を目指したが、開催地に選ばれなかった。「招致に税金を無駄遣いする一方で、税負担が増すだけで市民生活は向上しなかった」。トランプ前政権時代は新型コロナウイルスの感染拡大までは経済が好調だった。20年も続けて支持した。

 今回もトランプ氏を応援するのは「バイデン政権で物価高(インフレ)が進み、生活がさらに苦しくなった」と痛感しているからだ。今はノースカロライナ州で月760ドル(約11万3000円)の年金で暮らす。家賃が上昇する中、ルームシェア相手の厚意で負担を4分の1にしてもらい、ギリギリで暮らしている。食料費の公的補助や公的医療保険が頼りだが、「トランプ氏なら経済を好転させてくれる」との期待がある。

バイデン政権、政策実行に限界

 「バイデン政権は言っていることは聞こえが良いけど、実体がない」。同じトランプ氏の選挙集会に参加した黒人女性のナターシャ・パーカーさん(46)はそう批判する。

 民主党支持者だったが、今回はトランプ氏に乗り換えた。警察による黒人への暴力の防止、銃規制強化、投票機会の拡充など、黒人が重視する政策で進展が見られないのが大きな理由だ。「黒人はもっと政治への意識を高めて、公約だけでなく、実績でも政治家を吟味しないといけない」と語る。

 バイデン政権は選挙改革や警察改革を推進する姿勢は変えていない。しかし、選挙管理は州、警察権は自治体が主に実務を担う。大統領権限で抜本的な改革をするのは難しい。共和党の協力があれば法律によって改革するのも可能だが、共和党は「投票資格確認の厳格化」「警察権の強化」、民主党は「投票基準の緩和」「警察の暴力防止」を重視しており、方向性を一致させるのは困難だ。だが、結果を重視する有権者には「バイデン政権は無策だ」と映っている。

切り崩しを狙うトランプ氏

 11月の大統領選に向け、返り咲きを狙うトランプ氏も「黒人票」を強く意識している。

 2月23日の選挙集会では「私は何も悪いことをしていないのに(四つの刑事事件で)起訴されたが、黒人たちが、そのことで私に好感を持っていると言われている。なぜなら、彼らもまた、ずっと差別され、ひどく傷つけられてきたからだ」と発言。「当局による黒人を狙い撃ちにした取り締まり」に長年抗議してきた黒人と、「政治的な魔女狩りの被害者」を主張する自身を重ね合わせてアピールした。

 世論調査では、トランプ氏が前回よりも黒人からの得票を上積みする可能性が示されている。

 ピュー・リサーチ・センターの調査では、20年大統領選で黒人の92%がバイデン氏、8%がトランプ氏に投票し、人種別ではバイデン氏の支持割合が最も多かった。しかし、米紙ニューヨーク・タイムズの23年10~11月の調査では、11月に接戦が予想される6州で、黒人の22%が「今選挙があれば、トランプ氏に投票する」と回答し、陰りが見える。20年は6州ともバイデン氏が制したが、得票率差が1ポイント未満だった州もある。黒人の1割でもトランプ氏に票が流れれば、接戦州では勝敗を左右しかねない。

 ただ、トランプ氏は大統領在任中に白人至上主義団体を批判してこなかったことが問題視されてきた。21年のトランプ氏の支持者による連邦議会襲撃事件でも、白人至上主義団体の幹部が暴力を扇動したとして有罪判決を受けた。トランプ氏は退任後も白人至上主義者との会食が明るみに出ており、黒人の不信感は根強い。

 23日の選挙集会でも、参加者の圧倒的多数は白人で、黒人は1%いるかどうかという程度だった。サウスカロライナ州は人口の約4分の1を黒人が占めるが、「黒人の多くはトランプ氏のことを人種差別主義者だと恐れている」(パーカーさん)のも一因だとみられる。ダイヤモンドさんは「黒人がトランプ氏を怖がるように民主党が(トランプ氏は差別主義者だという)ストーリーを作っている」と話した。

 黒人有権者の動向に詳しいサウスカロライナ大のトッド・ショー准教授(政治学)は「トランプ氏に投票する黒人は大きく増えないだろうが、警察改革や投票機会拡充などの政策が進まないことに不満を持つ黒人は多い。バイデン氏の高齢問題もある。トランプ氏は政権への不信感の種をまき、投票に行かない黒人を増やすことで、選挙を有利に進めようとしている。黒人のティム・スコット上院議員など有色人種から副大統領候補を選ぶ可能性も十分ある」と指摘している。

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