東京都目黒区の自宅で5月、両親に向精神薬を飲ませて自殺を手助けしたとして自殺ほう助罪に問われた歌舞伎俳優の市川猿之助(本名・喜熨斗<きのし>孝彦)被告(47)に対し、東京地裁は17日、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役3年)の有罪判決を言い渡した。
被告が望む復帰「簡単には…」
有罪判決を受け、歌舞伎俳優の市川猿之助被告は17日、「父と母を巻き込んでしまい、歌舞伎界を含め、多くの皆様に治癒し難い傷を負わせ、言い表せない罪を感じている」とのメッセージを、歌舞伎公演を手がける松竹を通じて発表した。
猿之助被告は、一部週刊誌が弟子らへのセクハラやパワハラがあったとする疑惑を報じることを知り、「『猿之助』という名前のみならず歌舞伎界という大きな伝統と文化に深い傷を与えてしまうこと、成長を歩み続けている猿之助一門のみんなを暗闇の中に放り出すこと、その現実の大きさから自死を選んだ」と説明した。今後については「生かされた自分に何ができるか、一日一日一生懸命に生きていこうと考えている」とつづった。
一方、松竹は「判決を極めて重く受け止める」とのコメントを発表。猿之助被告が行った判断は「決して許されるものではなく、大きな過ちであった」と強調した。その上で、猿之助被告の今後の活動について「まったく白紙の状態」とし「進むべき道を共に模索したい」と記した。週刊誌報道を巡っては「あらゆるハラスメント行為は決して許されない」とし、通報窓口の利用対象者を松竹社員だけでなく舞台関係者にも拡大するなどの取り組みを進めていると記載した。記事内容について現時点では「事実認識はない」ものの「今後しかるべく確認を行い、その結果に応じて必要な対応を行う」とした。
猿之助被告の所属事務所も、「改めて深くおわび申し上げる」とホームページに掲載。猿之助被告からの申し出により17日付で契約を終了すると発表した。
演劇評論家の水落潔さんは「仮に本人が歌舞伎の世界に戻りたいとしても、刑の執行猶予期間が終わらない限り、復帰はできないだろう。まずは自らが犯した罪と向き合ってほしい」と話した。週刊誌報道についても「本人から、はっきりとした説明がなされる必要がある。セクハラとパワハラに対する世間の目は厳しくなっている。うやむやにはできない」と指摘した。
ただ、演者やプロデューサーとしての猿之助被告の能力を評価する声も歌舞伎界にはある。別の関係者は「猿之助被告は素晴らしい歌舞伎俳優ではあると思う。だが、これだけの事件を起こしながら、簡単に復帰したら世間は許さないだろう」と語った。【広瀬登】