自治体に寄付すると住民税などが控除される「ふるさと納税」。総務省によると、22年度の全国の寄付総額は前年より約2割増加し約9654億円で、過去最高を更新した。新潟県内では燕市や南魚沼市などが過去最高額を更新した一方、寄付額から経費や住民税減収分などを差し引いた結果、実質「赤字」となる自治体も。あの手この手で寄付額を増やそうと奔走する自治体の現状を追った。【池田真由香】
県内30市区町と県の寄付額は312億6788万円で、全国10位に入った。前年の246億1472万から65億以上増加し、過去最高額を更新した。
市町村別で見ると、1位は燕市で54億9487万円。全国でも20位に入った。もともと職人が作るカトラリーや、コロナ禍の巣ごもり需要を背景にキッチン家電などが人気だったが、耐久性に優れ高品質なこともあり、繰り返し注文する人は少なかった。
21年には県内7年連続1位が途絶え、「需要が一巡した」と考えた同市は新たにインスタグラムのアカウントを開設したほか、仲介料を支払うポータルサイトに頼らず直営サイトを用意しPRし、新規寄付者の掘り起こしを図ってきた。同市総務課の担当者は「魅力的な返礼品が多く、地元事業者が協力的なのでPRしやすい。全国20位になり注目され好循環が生まれている」と誇らしげだ。
2位は南魚沼市の51億3505万円。コメの名産地なため、発送する返礼品の8割以上がコメ(餅とのセットも含む)だという。前年度比で6億円以上増加したが、同市U&Iときめき課の担当者は「コメのおいしさが伝わり、リピーターが多いことが一因だろう。市内の農家のみなさんの取り組みや努力でブランド力が上がった」と分析する。
3位は三条市の50億5544万円。同市営業戦略室によると、21年10月からマーケティングの強化のためCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー=最高マーケティング責任者)を公募。返礼品に、同市に本社を置く「スノーピーク」のアウトドア用品などを用意したほか、果物なども増やしリピーターを30%ほどに増やした。
県内の状況をみると、この3市で県内自治体への寄付額の半数を占める。
新潟市は、寄付金の寄付額よりも同市民が他の自治体に寄付したことによる住民税の流出が大きく「赤字」となった。寄付金4億5862円に対し、市民税の控除は21億5162万円。流出分の大部分は地方交付税などで補填されるが2億円ほど赤字の予定で、新潟市財務企画課の担当者は「影響は少なくない」ともらす。
危機感を抱く新潟市は今年度、返礼品を扱うポータルサイトを拡充。市外へのPRを強化しようと、サイト内の写真をわかりやすいものに差し替えた。人気の返礼品は地ビールや海産物加工品だが、県外の寄付者が新潟の名産品としてイメージしやすいコメや日本酒に重点を置いて返礼品を増やした。担当者は「市民に『ふるさと納税をしないで』と抑制することはできない。寄付額を伸ばすしかない」と話した。
魅力ある返礼品で寄付を集めようと、全国の自治体による「返礼品競争」は年々加速化している。高額な商品や商品券を返礼品にする自治体が一部あり、総務省は19年にルールを改正。自治体が寄付金を行政サービスなどに使えるようにするため、返礼品や寄付募集の際にかかる経費は「寄付額の5割以下」にすることが求められている。
また総務省は10月から熟成肉やコメについて、原材料が返礼品を贈る自治体と同じ都道府県内で生産されたものに限定した。他県産のコメを精米したりするだけでは、自治体の返礼品とすることはできなくなる。また「5割以下」と定められている経費について、これまで含まれていなかった、寄付の受領証や、寄付者の確定申告を不要とする「ワンストップ特例制度」の郵送費、事務費も経費に含めることになった。
ルール改正で、県内の自治体にも一部影響が出そうだ。三条市が返礼品としている金属加工品の中には県外で加工する過程もあり、地場産品に認められるか総務省とやりとりが続く。三条市の担当者は「6月に総務省が示した際は肉とコメのみで工業製品は入っていなかった。初めから伝えてほしかった」と困惑する。
2022年度のふるさと納税の自治体別寄付額◇
燕市 54億9487万円
南魚沼市 51億3505万円
三条市 50億5544万円
魚沼市 28億2249万円
長岡市 24億6604万円
胎内市 21億3138万円
湯沢町 7億3160万円
弥彦村 6億6097万円
阿賀町 6億 149万円
村上市 5億1402万円
小千谷市 4億9223万円
新発田市 4億8793万円
加茂市 4億5898万円
新潟市 4億5862万円
佐渡市 4億2278万円
十日町市 4億 199万円
柏崎市 3億9821万円
阿賀野市 3億6253万円
聖籠町 3億1323万円
糸魚川市 2億5208万円
津南町 2億 106万円
妙高市 1億6624万円
五泉市 1億2140万円
上越市 1億 674万円
関川村 7645万円
見附市 5499万円
田上町 2768万円
出雲崎町 1645万円
粟島浦村 313万円
刈羽村 12万円
新潟県 8億3156万円
計312億6788万円
※総務省の資料を基に作成、1000円以下は切り捨て