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ウクライナ侵攻をゲームに 虐殺の街を再現「これはメッセージ」


 昨年2月にロシアがウクライナに攻めてきた時、郷土防衛隊に加わった母は首都キーウ(キエフ)へ向かった。首都近郊ブチャの母子家庭で育った15歳の少年ヤリクは、姉(17)と街に残された。ある日、ロシア兵が家に来る。「尋問をする」。兵士は寝室で姉に暴行し、司令部へ拉致した。ヤリクは自問する。「僕はどうすべきだったのか」

 ヤリクは姉を助けようと司令部に向かう。だが、すぐに拘束され、「穴」の前へ連行される。何が起きるかは分かっていたが、理解しないようにした。銃の安全装置が外れる音がする――。

 <ブチャはロシア軍の占領による被害の象徴となりましたが、ジェノサイド(大量虐殺)が実行されたのがこの街だけとは到底考えられません。戦争終結の見通しは立っていません>

占領下のブチャに閉じ込められた経験

 昨年10月に公開されたゲーム「ウクライナ・ウォー・ストーリーズ(UWS)」。エピローグの文字とともにゲーム機の画面が街中の道路の絵を映し出すと、プレーしていたオレクサンドル・アンドロシュクさん(23)は声を上げた。

 「そうそう、これだよ。僕の家の前の通りだ」

 何人もの市民の遺体が路上に放置され、後に「死の通り」と呼ばれたヤブルンスカ通りだ。戦争が始まったとき、彼もまたゲームの中のヤリクのように、占領下のブチャに閉じ込められた。

 今年7月中旬、キーウ市内のホテルで取材に応じたアンドロシュクさんは、自分が開発に関わったUWSをプレーしてみせた。このゲームを作ったのは、昨年8月まで彼が勤めていた制作会社「スターニーゲームズ」(キーウ)だ。

「戦争の実態を世界に伝える」

 侵攻から約半月後、アンドロシュクさんがブチャを逃れて初めて会社と連絡を取ったとき、すでに制作に向けた議論が始まっていた。彼は侵攻の1カ月前に入社したばかりの新人だったが、ブチャに取り残された経験から、ストーリーの一部の監修を任された。

 UWSは「ビジュアルノベル」と呼ばれるジャンルだ。イラストと共に画面に出てくる物語を読み進めると、主人公の行動を選択する場面に行き当たる。選択肢に応じて物語はさまざまな展開を見せ、異なる結末へと向かう。それは、戦時下でいきなり決定的な選択に直面したアンドロシュクさんの経験とも重なっている。

 UWSは、侵攻初期に激戦地となった首都近郊のホストメリとブチャ、そして南東部マリウポリを舞台にした三つの章がある。登場人物や物語は架空のものだが、いずれも報道や証言に裏付けられた事実を基に作られた。UWSが制作された背景には、「戦争の実態を世界に伝える」という明確な狙いがあったからだ。

シンプルな形で強いメッセージを

 アンドロシュクさんはゲームの完成度に満足しているわけではない。「これはゲームというよりメッセージに近い。絵だって、水彩画のようだ。個人的にはもっと写真のような絵にしたかった」。それでも、このゲームの重要性は理解している。「シンプルな形で強いメッセージを伝えている。メディアとしてはクールだ」【キーウで金子淳】

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