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感染症専門家・忽那賢志さん コロナ禍で貫く信念と意外な素顔


 新型コロナウイルス禍の新聞・テレビ報道で、おなじみになった専門家の一人、大阪大大学院医学系研究科感染制御学教授の忽那賢志(くつなさとし)さん(44)。診察にあたりながら情報発信を続け、同大の公式動画サイトではみずから演じて感染対策を訴える。忽那先生ってどんな方?

 大阪モノレール阪大病院前駅で下車。目の前に広がる病院関連の建物群。あちこちに立つ構内マップ(看板)を頼りに忽那さんの職場へ。

 忽那さんがここに赴任してきたのは、コロナの流行真っただ中の2021年7月。前職場は国立国際医療研究センター国際感染症センター(東京都)。

 「阪大に行きたいと思っていました」と明かす。「阪大には『微生物病研究所』という感染症の研究所と、『感染症総合教育研究拠点』(CiDER=サイダー)という部門があって、感染症に力を入れているので」と念願がかなったわけだ。

 大阪に住むのは初めて。水は合いますか。「ノリは合っているみたいで。ハハハ」。恥ずかしさを隠すように声を上げて笑った。

 この3年あまりで大変だった時期はいつでしょう? 「流行初期ですね。治療法もワクチンもなく、コロナを診る医療機関は限られていて、私たちの病院に患者さんがどんどん集まってきた。私も『感染したら嫌だなあ』という思いがあった。肉体的にもつらかったですね」

 激務の中でも、忽那さんはネット上に記事を書き続けた。ウイルスの解説や感染データ、感染症の歴史など、さまざまな角度から「感染」を説明した。最近では「新型コロナが5類感染症になってから分かりにくくなった流行状況をどうつかんだらよいか」を発信した。かゆいところに手が届くテーマ設定だ。

 新聞・テレビの取材にも応じてきた。「感染対策は科学的に正しいことを伝えることが必要だと思った。正しくないと思う情報も時々流れていたので、正しいことを伝えることで間違った情報が伝わるのを防げたらよいと思ったんです」

 大阪大ホームページ内に忽那さんが発案した動画シリーズ「くつ王サイダー」がある。感染対策を伝えているが、これが楽しい。忽那さんが主役・くつ王。同僚たちも登場。素朴な演技、とつとつとした話し方、クスッと笑えるシナリオ。テーマは、マスクのつけ外し▽手の洗い方▽帰省の時の注意など。「感染症は嫌なものですから楽しく知ってもらいたい」という忽那さんの思いそのままだ。

分かった「換気の重要性」

 このパンデミック(世界的大流行)で忽那さんが学んだことがある。それは「これまでの感染症の常識が通用しなかったこと」だ。「感染症は症状の出た人が周囲に感染を広げるというのが定説だったが、コロナは発症する前から感染を広げることがわかった」

 あの手この手でなされた感染対策はどうみるか。

 忽那さんが真っ先に挙げたのが「換気」。「これまでさほど注目されていなかった換気の重要性が分かった」と声に力が入った。一方で「飲食店のパーティション。あれは有効だったのか。今もよくわかっていない。またパンデミックが起きたときに必要なのか、科学的評価が必要だろう」と話す。

 トイレのハンドドライヤーの使用中止はどうか。「ウイルスが手に付いていたとしても、ハンドドライヤーで舞い上がり、感染につながるというデータはない」。忽那さんは批判しているのでなく「流行初期は分からないことばかりで、過剰になっていた」と振り返る。

父の死きっかけに医師目指す

 忽那さんは北九州市出身。小学5年のときに父を白血病で亡くした。そのときに心に決めた。「血液内科の医師になって、血液の病気の人をたくさん治したい」

 山口大医学部を卒業後、研修医として下関の病院で働いていた時に感染症に関心を持った。「入院患者に熱を出す人が多い。その原因の多くは感染症ですが、感染症を専門にみる医師は少ない。専門医がもっと必要なのでは」と感じた。

 感染症はウイルス、細菌、真菌などいろいろな病原体によって引き起こされ、病原体と宿主(人間など)の関係によって症状は異なり、治療の戦略も変わる。「この専門性が高い領域で仕事をしたい」と道を決めた。

趣味は「マダニ収集」

 感染症の一つで、繰り返し熱が出る「回帰熱」はマダニや蚊を媒介して感染するが、マダニは、国内でも地域によって生息する種類が違う。そのため、その地域のマダニはどんな病原体を持っているか、その割合はどれくらいかなどは、調べないとわからない。そこで忽那さんは約10年前から年数回、仲間とマダニ収集をして、分析している。

 それ「趣味」ですか?

 「趣味ですよ。私の本業は臨床医なので」と控えめ。マダニ収集の方法は、山の中で白い布を棒に付け、旗を振るように振り回して、布にマダニをくっつけるやり方。約3年ぶりに最近出掛けたという場所は、大阪府箕面市の山。仲間約10人で約100匹つかまえたとか。

 もうひとつの趣味は寺巡り。「お寺の雰囲気、庭園や仏像を見るのが好きです」

 健康の秘訣(ひけつ)は「睡眠、ですかね」。目標7時間。最低でも6時間。

 医師になって20年。なってよかったと思うのは「患者さんがよくなって、感謝のことばを言われたときです」。穏やかな声だった。

 忽那さんが忙しい事態にならないように……と願う。【三角真理】

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