健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化する「マイナ保険証」を巡り、岸田文雄首相が新たな対応を決めあぐねている。紙の健康保険証を廃止する時期を1年程度遅らせる案が念頭にある首相官邸に対し、加藤勝信厚生労働相や河野太郎デジタル相が来年秋の廃止方針を堅持する姿勢を崩さないためだ。
7月31日昼、首相側近の木原誠二官房副長官が厚労省を訪れ、加藤氏と非公式に協議した。廃止の延期を提案した木原氏に対し、加藤氏は保険証の代わりに発行する資格確認証の有効期間を柔軟に運用する案を主張して譲らず、協議は物別れに終わった。
協議後の加藤氏は重く沈んだ面持ちだったという。厚労省幹部は「木原氏を加藤氏が追い返した形になった」と補足する。
河野氏も1日の記者会見で、24年秋に保険証を廃止する方針について「厚生労働省、総務省ともご相談の上、総理の了解も得て決めたこと」と述べ、延期を改めて否定した。デジタル庁幹部は「今になって延期なんて、河野氏にとってははしごを外されるようなものだ。法改正したばかりなのに延期というのはおかしいのではないか」といらだちを見せる。
24年秋の健康保険証の廃止は、6月に成立した改正マイナンバー法で定められており、延期には法改正が必要になる。秋の臨時国会で法案を提出する可能性があり、過去に同様の事例があるか調べているというが、短期間での改正は極めて異例。野党が追及して国会審議が大荒れになるのは必至だ。
31日の協議後、1日に予定されていた関係閣僚会合は延期が決まった。政府は今後、マイナンバーの情報ひも付けに関する総点検の中間報告を8日にも公表したい考えだ。首相はこの前後に記者会見を開き、対応を表明するとみられる。ただ、腰の定まらない首相の様子に、政府内からは「決められない首相だ」との声も漏れる。【神足俊輔、中川友希】