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米軍ガス弾でパニックに 置き去りになった2歳妹 逃げ場なき有事


 沖縄県浦添(うらそえ)市の喜舎場宗正(きしゃばそうせい)さん(84)は教職を退職後、戦争を知らない世代に沖縄戦の体験を語ってきた。だが、ある場面の話になると、いつも涙があふれ出し、後が続かない――。

 当時6歳だった。母と祖母は既に病気で他界。ヤギや豚、牛を飼って農業を営んでいた父は米軍の進攻が迫り、兵員補充のための「防衛隊」として動員された。祖父と12歳の姉、喜舎場さん、2歳の妹の4人が残された。

 1945年4月1日、米軍は沖縄本島中部に上陸し、南へ進攻した。5月ごろ、自宅があった現在の浦添市一帯は、米軍と日本軍の主力がぶつかる激戦地となった。事前に避難できず、残った住民はガマ(自然洞窟)や防空壕(ごう)、沖縄特有の大きな墓などに逃げ込んだ。喜舎場さん一家も4人で近くのガマを目指した。

ガマの入り口に米兵が

 だが、その途中で祖父は頭を撃たれた。即死だった。子どもたち3人は戦場をさまよった末、ガマにたどり着いた。中には数人の女性と子どもがいた。数日後、銃を構えた米兵2人が入り口に現れ、「デテコーイ」と投降を呼びかけた。じっとしているとガス弾を投げ込まれ、火と煙でパニックになった。

 「ヘークヒンギレー(早く逃げろー)」。他の大人たちの後を追い、外に出ようとした時、おびえて座り込む妹が喜舎場さんの視界に入った。「その時は逃げるのに必死だった」。妹は置き去りになった。

 ガマや防空壕などには住民に紛れて日本兵が潜んでいることがあり、米軍は容赦なく攻撃をかけた。喜舎場さんと姉はガマを出た後、自宅近くの民家の防空壕に隠れたが、そこでも米軍から火炎放射器を放たれ、熱さに耐え切れず外に出たところで捕虜になった。

 喜舎場さんは姉と一緒に米軍が設置した孤児院へ入れられた。数日たった頃、妹が米兵に連れられ、その孤児院に現れた。保護した妹の身元を確認するためだったと思う。思いがけない再会。だが、妹は立てないほどに衰弱し、栄養失調でおなかが膨らんで両目がくぼんでいた。変わり果てた姿に喜舎場さんは声をかけることができなかった。妹はすぐに病院に連れて行かれ、その後の消息はわからなくなった。

 2011年、喜舎場さんは孤児院で亡くなった児童を供養する慰霊祭が沖縄市で営まれることを新聞で知り、参列した。会場で見た死没者名簿に、妹の「キヨコ」の名前があった。妹は再会の後、そのまま亡くなったとみられる。50年以上の月日がたって、初めてその死を確認した。

 喜舎場さんはその後、「語り部」として自身の沖縄戦体験を語るようになったが、孤児院での妹と再会した場面で、いつも声が詰まる。「置き去りにされた暗いガマで妹はどんな気持ちでいたのか。考える度に胸が苦しくなるんです」

進まなかった住民避難

 沖縄県史によると、沖縄戦で、浦添村(現在の浦添市)の人口約1万1000人のうち、4割を超える4600人以上が戦闘に巻き込まれるなどして亡くなった。浦添市史は事前に住民避難が進まなかった理由として、家族が離れ離れになることや避難先での生活不安などを挙げる。

 沖縄戦研究者の津多則光さん(80)は「日本軍による『根こそぎ動員』もその要因の一つだった」と指摘する。大人は「防衛隊」、少年少女らは「義勇隊」として、戦場に駆り出された。喜舎場さんの父も喜舎場さんたちが隠れたガマのすぐ近くの戦場で、弾薬を運ぶ作業などをさせられ、やがて部隊を抜け出して生き延びたという。

 喜舎場さんは今、「防衛力強化」の名の下で自衛隊の増強が進む沖縄の状況に不安を抱く。「沖縄は大変なところに向かっていないだろうか。妹が生きられなかった平和な世の中を子どもたちに残したい」【比嘉洋】

シェルター整備に沖縄戦の教訓は

 政府は近年、軍事的活動を活発化させる中国を念頭に、台湾に近い沖縄県の与那国島や宮古島、石垣島などの南西諸島に陸上自衛隊駐屯地を次々と開設している。住民には「有事で攻撃対象になる」と懸念する声もあり、政府は、住民が避難できる「シェルター」の整備を進める方針を打ち出す。だが、沖縄戦研究者の津多さんはシェルターについて「収容人数や避難期間をどう想定しているのか具体性が見えない」と実効性に疑問を呈する。

 沖縄戦では米軍が迫り、住民はガマや沖縄特有の大きな墓などに逃げ込んだ。現在で言う「シェルター」だったが、そこにも米軍の攻撃が加えられ、住民は砲弾が降り注ぐ戦場を逃げ惑った。

 沖縄戦の教訓とは何か。津多さんは「当時と比べ、人権に対する考え方には変化があるが、軍隊は住民を守るのではなく、国土と国家のために戦うという本質は変わっていない。軍事の論理で有事を語る人は多いが、戦場に置かれる住民一人一人のことを考えなければ有事の現実は見えてこない」と強調する。

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