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学校での性被害、モラハラ・パワハラと一体 大人自身が境界線を


 女子生徒が部活顧問の男性教員に、必要以上に身体を密着させて指導されたり、休憩中にふざけて脇をくすぐられたりするようにして胸付近を触られた――。四国地方の中学校で実際にあった教師によるセクハラの事例だ。内閣府の調査で、若年層の「身体接触を伴う性暴力被害」の加害者は見ず知らずの他人に次いで学校関係者が多いというデータもあり、被害の温床となっている。

 関係者によると、冒頭の顧問は部員に長時間の練習を強要したり、部員が自主練習をしないと不機嫌になったりするなどのパワハラや、ひどい態度で相手を追い詰めるモラハラに当てはまる言動も日ごろからあった。部員たちは常に顧問の顔色をうかがい、機嫌を損ねないことが最優先だったという。

 セクハラを知った母親は教育委員会に相談しようとしたが、女子生徒は「大事(おおごと)になる」と反対し、親子関係も一時的に悪化した。母親は「子どもを支配されることで、間接的に保護者らも支配されていた。これまで顧問に対して『おかしい』と思いながら、誰も声を上げられなかった。私も解決方法が描けず、一人で抱え込んでしまった」と当時を振り返る。

 保育や教育施設での性被害相談の窓口を運営する香川県丸亀市の仙頭真希子弁護士は、これまでの相談傾向から「学校でのセクハラはモラハラ・パワハラと表裏一体の事例が多い」と指摘。相手を逃げられない精神・物理的な状況に追い込む「エントラップメント型」と呼ばれる性暴力の類型があることに触れ、「学校や部活の上下関係は、セクハラや性犯罪の温床になりやすい。『先生がそんなことをするはずがない』という思い込みが保護者、生徒の両方にあり、性被害に遭うまではひとごとになっている」と警鐘を鳴らす。

 女子生徒が受けた「くすぐり」のように指導の枠を逸脱した「越境行為」を入り口に、深刻な性犯罪が起こることもある。仙頭さんは「子どもが『何か変だな』と感じても、セクハラだと判断して早期に大人に相談するのは難しい。子どもと接する大人自身が適切な境界線を引かなければならないし、近すぎる距離で接する教職員を周囲も容認すべきではない」と指摘する。

 内閣府が16~24歳を対象に2022年に実施したオンライン調査によると、回答者6224人のうち約4人に1人が何らかの性暴力被害に遭っていた。加害者が教職員や先輩、同級生などの学校関係者だったケースは「性交を伴う被害」では29・3%で最多となり、「身体接触を伴う被害」では24・5%で「全く知らない人」(50・2%)に次いで2番目に高かった。

 22年に施行された「教員による児童生徒性暴力防止法」により、わいせつ行為で免許を失効した元教員の復職は厳しく制限されるようになった。過去に有罪判決や懲戒処分を受け、免許が失効などとなった教員を登録する「データベース」の運営も23年4月に始まり、各教委や学校法人には教員採用前の検索確認が義務づけられた。

 文部科学省の調査によると、性犯罪やセクハラなどで懲戒処分や訓告を受けた全国の公立学校や幼稚園の教職員は、21年度で216人。年間の懲戒処分はごく少ない。香川県教委の場合、懲戒処分の対象となるセクハラは県教委が本人や校長らへの聞き取りなどから認定するが、21年度の性犯罪・セクハラでの懲戒処分では、教え子にわいせつ行為をした様子を撮影し、有罪判決を受けた講師の免職1件のみ。20年度は5件だった。事件化に至らないセクハラの抑止力としては不十分だ。

 文科省は21年度に子どもたちを性暴力の被害者、加害者、傍観者にしないための教育として「生命(いのち)の安全教育」の教材をホームページで公開した。水着で隠れる「プライベートゾーン」を他人に見せない、触らせないことや、交際相手から受ける「デートDV」の知識などを発達段階に応じて教える内容で、23年度から全国で推進する方針だ。四国では、徳島県阿南市が21~22年度、小中学校2校で外部講師を招き、この教材を活用した授業を実施した。高知県は21年度に生命の安全教育を取り入れて「性に関する指導の手引き」を改訂し、小中高や特別支援学校へ産婦人科医、保健師を派遣する出前講義を始めて、22年度は54回実施。香川県教委は23年度中に同様の手引き改訂を予定している。

 だが、中学校の学習指導要領には「妊娠の経過は取り扱わない」と記述した「歯止め規定」と呼ばれる記述があり、義務教育では性交や避妊の具体的な内容をほとんど教えないのが一般的だ。生命の安全教育もあくまで「手引き」に過ぎず、性暴力被害防止と言いながら、性交について具体的な記述は無い。四国内の複数の学校関係者は「結局のところは校長の理解次第で、学校により温度差がある」「生命の安全教育を知らない先生も多い」「うちの学校では特に動きがない」と明かす。

 愛媛県宇和島市立の小中学校では、元教員や地域の助産師、保健師などの専門家が協力し、子どもたちが自分の心や体を守り、相手も大切にして、性的な行動を自分で決める「性的自己決定能力」を育む独自の包括的性教育カリキュラムを20年度から開発している。中学校では思春期の心と体の変化や、性器の生殖機能について科学的な情報を伝え、性被害に遭わないための自己判断の大切さなどを教えている。

 各校のとりまとめ役を担う同市立中学の養護教諭、岡田久美さん(55)は「『過激だ』などと誤解されてきたが、ジェンダーや人権の視点も取り入れた包括的性教育は、人生の幸せな選択をできるようにするもの」と指摘。「性に関する知識を科学的に正しく学んだ子どもの方が、将来の性行動に慎重になるというデータもあるし、性教育の授業後に過去の性被害を生徒から打ち明けられ、支援につなぐことができた事例もある。教職員によるセクハラ防止と、ジェンダー意識のアップデートにも有効だ」と期待を寄せる。【西本紗保美】

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 仙頭弁護士が運営する「子ども安全ネットかがわ」では、教職員による子どもの性被害などについて毎週火、土曜日の午後6~10時、電話(070・1419・0152)やLINEで無料相談を受け付けている。各県の性暴力被害のワンストップ支援センターや県教委なども対応している。

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