ロシアによる侵攻を受けたウクライナから逃れた学生たちと、前橋市内で日本語学校などを運営する学校法人との間で学費を巡るトラブルが起きていることが、関係者への取材で判明した。一部の学生らは「事前に一定期間は学費無料と説明されていたのに、その期間内から支払いを求められた」と主張。一方で、学校法人側は「(そうした)契約も約束もない」などとしている。一部の学生は既に東京都内の学校に移るなどしたという。
学生らに住まいとして市営住宅を提供し、一部への教材費補助を決めている前橋市もこのトラブルを把握。学校法人との話し合いに疲れて心身の不調を訴える学生もいるとして、精神保健福祉士や保健師を派遣している。
この学校法人は「ニッポンアカデミー」で、運営する日本語学校などで2022年5月以降、ウクライナから避難してきた学生の身元保証人になり、計約40人を受け入れている。
複数の学生によると、来日前に学校法人の関係者から日本語学校や専門学校の案内をメールで受け取った際、行政の支援を前提に「学費は無料」などと書かれていたという。無料期間は「1年」や「半年」と伝えられたとしている。
しかし学校法人側は9月、学生の来日時期にかかわらず学費を請求すると連絡した。10月に説明会があり、配布された資料では理由について「(当初の案内は)最大の支援の可能性として提示した内容で、契約でも約束でもなく、意向」などとしている。
学校法人側は学費の支払いについて、学校に入金▽学校法人理事長が代表を務めるNPO法人の活動資金として入金▽ウクライナ大使館または日本赤十字社へ学生名義で学校を通じて入金――のいずれかを選ぶ案を提示した。
ある学生は10月分から半年の学費として約30万円を求められたといい、別の学生は「学生証ももらっていない状態なのに、学校法人から学費を払うように何度も求められ、精神的に疲れた」と話した。
また資料では、学生らがこうした内容を口外しないように求めており、「仮に、それ(学校の立場に対する配慮)を守れないとするならば、保証人としての立場も返上しなければならない」などと記されている。
これに対し、一部の学生は東京都内の弁護士法人に所属するウクライナ人弁護士に相談。弁護士によると、これまでに聞き取りに応じた16人はいずれも「一定期間は学費無料と説明された」と話したといい、「第1陣は1年、第2陣は半年、それ以降は3カ月などと言われたようだ」としている。
学校法人の理事長はこれまでの毎日新聞の取材に「無料にすると言った覚えや契約、約束もない」と説明。学校法人の関係者が来日前の学生らとメールでやり取りをしたことは認めつつ「学生には前橋市などから支援金が支給され、アルバイトも紹介した。十分に自立しており、有償は当然だ」としている。
前橋市は22年4月、個人で避難してきたウクライナ人に学費30万円などを支援する方針を表明。しかし、その後は「日本語学校が身元保証人となる場合の支援金は10万円を上限とする」とし、学校法人にも説明したという。この方針について、理事長は「前橋市が30万円を支援すると言って、それを果たさない方が問題だ」と話した。【庄司哲也】