
もの忘れは年齢とともに増えるものですが、なかにはアルツハイマー病などの疾患が隠れていることもあります。
今回は、日本イーライリリー株式会社が主催する「年のせいじゃない"もの忘れ"展」を訪問。
アルツクリニック東京院長、順天堂大学医学部名誉教授の新井平伊先生に、アルツハイマー病の基礎知識をはじめ、30代・40代から気をつけたい生活習慣や、親に受診を勧める際のコミュニケーション方法についてお話を伺いました。

さまざまな原因によって認知機能が低下し、日常生活に支障が生じている状態を指します。その原因となる代表的な疾患がアルツハイマー病です。
新井先生によると、アルツハイマー病には「アミロイドβ」というタンパク質が深く関係しているそうです。
「アミロイドβというタンパク質が脳の中にたまり、神経細胞に影響を及ぼすことで、脳がだんだん萎縮していきます。アルツハイマー病というと、急速に症状が進んでしまうイメージがあるかもしれませんが、実際はもっと緩やかです」
アミロイドβは、症状が現れる約20年前から脳内に蓄積し始めるといわれています。その後、軽度認知障害(MCI)などの段階を経て、徐々に症状が進行していきます。
では、年齢によるもの忘れとは、どのような違いがあるのでしょうか。
「最初はどちらも同じようなど忘れから始まります。例えば、人の名前が出てこなくても、ヒントをもらって思い出せるのは加齢によるもの忘れのわかりやすい例です。一方、ヒントをもらっても思い出せない場合は、病気が関係している可能性があります」

ただし、新井先生は、思い出せなかったからといって、すぐに認知症を疑う必要はないと説明します。
「忙しかったり、疲れていたり、寝不足だったりすると、注意力が低下して忘れてしまうこともあります。大切なのは、その頻度や程度です」
このように、もの忘れにはさまざまな原因があり、日常生活の中で起こる小さな変化だけで病気かどうかを判断することはできません。
一方で、アルツハイマー病は早い段階で気づくことが重要です。現在は、アミロイドβを減らし、病気の進行を遅らせることを目指す治療法も登場しています。
「軽度認知障害(MCI)の段階で医療機関にかかることが、とても重要です」
もの忘れの頻度が増えたり、以前とは違う変化が続いたりする場合は、年齢のせいと決めつけず、専門医に相談することがとても大切です。

「若年性アルツハイマー病は高齢者と比べると少ないのですが、若い世代でも発症する可能性があります。また、若年性の場合は、高齢者よりも症状の進行が早い傾向があります」
新井先生によると、若年性アルツハイマー病の平均発症年齢は51歳程度とのこと。
では、30代・40代が普段の生活で気をつけるべきことは何なのでしょうか。
「日常生活で大事なのは、生活習慣病に気をつけることです。糖尿病や高血圧、脂質異常症などがあると、アルツハイマー病の発症リスクが高くなります。それから、運動不足や寝不足もアミロイドβがたまりやすくなる要因です」

「アミロイドβは20年ほどかけて蓄積していきます。若年性アルツハイマー病の平均発症年齢は51歳程度なので、20年さかのぼると30代前半になります。つまり、30代から睡眠不足に気をつけることが大切なんです。また、精神的・身体的なストレスも睡眠の質を低下させるため、十分な睡眠をとることが重要です」
また、飲酒習慣や人との交流も、認知症の発症リスクに関係しているといいます。
「20代、30代から毎日のようにお酒を飲んでいると、脳の老化が早く進むことがあります。場合によってはアルツハイマー病の原因にもなります。また、家に閉じこもっていたり、人との交流が少なかったりする人も、認知症になりやすい傾向があります」
アルツハイマー病は高齢になってから考えるものではなく、30代・40代から生活習慣を見直すことも、将来の健康を守るための大切な一歩といえそうです。

しかし、親に「認知症かもしれないから病院に行って」と伝えるのは、なかなか難しいもの。本人が傷ついたり、怒ってしまったりすることも考えられます。
そこで新井先生に、親の自尊心を傷つけずに受診を勧める方法を伺いました。
「家族が『あれ?』と思う段階では、まだ認知症になっていないことも多いんです。軽度認知障害(MCI)の段階かもしれないので、最初から『認知症』という言葉は使わない方がいいですね」
新井先生がおすすめするのは、「老化」という言葉を使いながら、本人への思いを素直に伝えること。
「一番いいのは正攻法です。『いつまでも元気でいてほしい』という本当の気持ちを、正直に伝えることですね。本人も以前とは何か違うと感じていることがあります。だからこそ、指摘されると怒ってしまうこともあるんです」
そのため、家族も感情的にならず、年齢とともに体が変化するのは自然なことだと伝えたうえで、健康状態を確認するための受診を提案するとよいそうです。
「『いつまでも元気でいてほしいから、どの程度の老化なのか調べてほしい』と伝えるんです。ただ、配偶者から言うと喧嘩になってしまうこともあるので、お父さんなら娘さん、お母さんなら息子さんから伝えるのもいいですね。もっといいのはお孫さんです」
また、親だけを受診させるのではなく、家族が一緒に検査を受けるという方法もあります。
「『私も心配だから、一人で受けるのは嫌なので一緒に受けてほしい』と伝えるのも一つの方法です。あとは、普段から診てもらっているかかりつけ医に、検査を勧めてもらうのもいいと思います」
一方、避けた方がいいのは、本人に本当の目的を伝えず、病院へ連れていくこと。
「だまし討ちのように病院へ連れていくのは、一番よくありません。病院に行っても、本人が検査に協力してくれない可能性がありますから」
親のもの忘れが気になったときは、病気を疑う言葉を投げかけるのではなく、いつまでも元気でいてほしいという思いを素直に伝えることが、受診への第一歩となりそうです。

会場には、アルツハイマー病によるもの忘れを日常生活の中で表現した「アルツハイム921号室」をはじめ、疾患について学べる解説パネルや脳のオブジェなど、さまざまな展示が用意されていました。
アルツハイマー病は、決して高齢者だけの問題ではありません。将来の健康のために自分自身の生活習慣を見直すこと、そして親の小さな変化に気づくことの大切さを考える機会となりました。
