■仲のいい夫婦だと思っていたのに
結婚して20年。ここ10年ほどは年に数回しかセックスはしていないが、それはお互いに忙しいから。自分たちは仲のいい夫婦だと思っていたと話すのは、ツカサさん(49歳)だ。
「会話がないわけじゃないし、僕は家事もやるし、妻や子どもたちも僕の料理は褒めてくれるんですよ。年に数回のセックスだって自分勝手にやっていたわけじゃないと思うんです。でもこの数年、妻はその年に数回のセックスも『ごめんね、疲れてて』と断るんです。そう言われると誘いづらくなる、ますますしなくなる。だからつい先日は、ついイラッとして『いいじゃないか、夫婦なんだから』と言ったんですよ。無理強いしたつもりはありません」
すると妻は、薄闇の中で彼の顔をじっと見て、『夫婦だからって、私はあなたの言いなりにならないといけないの?』と尖った声で言った。自分の知っている妻ではないような気がしたとツカサさんは言う。
「浮気しているのかな、ととっさに思いました。とはいえ、そんなことは聞けないし。ただ、妻は、僕が思っているより僕のことを好きではないんだなと直感で思いました。そもそも、夫婦も長くなると、改めて相手を好きかどうかなんて考えたりしませんけど」
妻が他人に見えたとき、ツカサさんは無力感に襲われたという。
■妻と老後も仲良くやっていきたい
その後、妻はなにごともなかったかのように日常生活を送っている。大学生の息子と高校生の娘にも変わった様子はない。だが、彼は「定年になったら、妻から見捨てられるのではないか」と焦る気持ちがわいてきたという。
「社内的な立場もけっこういろいろあって。あと10年で出世は見込めない。しょせん、オレの人生なんて平凡すぎるくらい平凡で、でもそれでいいんだと今まで思ってきました。だけどそれは家庭という落ち着ける場所があって妻がいたから。今は家庭にいても、どこか居心地の悪さを感じています」
なにやら被害妄想が少し入っているような気もするが、そんなツカサさんに、それほどの気持ちがあるのなら、今まで妻に対して言葉や態度できちんと愛情と感謝を伝えてきたのかと問うと、まったくしていないというのだ。
言わなくてもわかるだろうというのは、日本の夫婦の悪いクセだ。言わなければわからない、気持ちは伝わらない。
年齢から考えて、同い年の妻は更年期。心身ともにつらい時期なのかもしれない。するとツカサさんは、それは妻から聞いているという。だが更年期によって出てくる症状は、夫にはなかなか理解しづらいのも確か。
「トシ食って動作が鈍いなんて笑ったことがあるんですよね。それについては妻も憤っていました。だからそれ以来、年齢のことは言わないようにしています」
更年期について、年齢について触れずにいることが重要なのではない。寄り添おうとしない態度が問題なのだ。妻が今、どういう気持ちで暮らしているのか、最近何か心配ごとはないのか。折りに触れて声をかけておけば、妻も素直に自分の気持ちを話せるのではないだろうか。もちろん、これは男女を入れ替えても同じことではある。
せっかく夫婦になったのだから、添い遂げたいのならそういった思いやりを継続させていくことが大事なのではないだろうか。