■結婚するはずだったのに……
4年間つきあっていた同い年の男性から、突然「ごめん、やっぱり結婚を考えられなくなった」とフラれてしまったのはノリエさん(41歳)だ。
「理由がわからないんですよ。とにかく結婚に踏み切れないの一点張り。私のことが嫌いになったわけではない、と。私は別れないと言い張って、一時期は無理やりデートしていたんですが、彼はちっとも楽しそうじゃないし、会話も弾まない。いつも私が泣いて気まずく別れるだけ。ある日、これ以上、彼を追いつめてもお互いに不幸になるだけだと悟って、会う約束の日に連絡もせず行かなかったんです。そうしたら彼からも連絡が来なかった。少しでも気になるなら、『どうしたの?』くらい言って寄越しますよね。それがないということは、もう私に興味も関心もないということだとわかったんです。これが彼の答えなんだ、と」
彼を失い、ノリエさんは心と同時に体中が痛むという経験をした。自分が本当に彼を好きだったのだとわかった時間でもあった。
「それでも幸い、私には仕事がありました。無理やり忙しくすることで、なんとか時間をやり過ごしていった」
連絡をとらなくなって3ヶ月ほどたったころだろうか。人づてに彼が結婚したことを聞いた。結局、彼はふたまたをかけ、ノリエさんではない女性を選んだのだ。彼女はそれを聞いて、気を失うほど傷ついた。実際、全身の力が抜けてよろけ、倒れてしまったという。
「他に好きな人ができたなら、はっきり言ってほしかった。それを言う価値すら私にはなかったということなのか。傷つくって、こういうものなんだと納得できるほど傷つきました」
それが今から1年前のこと。そして彼女はいまだ立ち直れていない。何をしても楽しいと思えない。友人に会う気にもなれず、仕事以外は家にひきこもっている状態だ。
「光が見えない、希望がない。私が生きていていいのかさえわからない」
失恋は、人格の全否定ではないし、たまたま彼というひとりの人間に合わなかっただけ。だが、そうは思えないのが失恋のショックなのだろう。
■相手を苦しめない別れ方はあるのか……
つい最近、8年間の同棲生活を解消したマキさん(40歳)。4歳年下の彼が突然、田舎の実家に帰ると言い、家を出ていったのだという。
「彼は私に来てほしいとは言わなかった。おそらく田舎で見合いでもして結婚するんでしょう。都会の生活に疲れていたし、おそらく私にも疲れていたんだと思う」
子どもができたら結婚しよう。そんな話をしていた時期もある。だが、幸か不幸か子どもはできなかった。彼は職場での人間関係に疲れ果てていたし、実家からは家業を継いでほしいと言われていたようだ。
「ひとりでずっと考えて結論を出したみたい。私のことはどう思っていたのか、彼の人生の中で私の位置づけはどうなっているのか。そのあたりを聞きたかったけど、ある日、仕事から帰ったらテーブルの上に『今までありがとう』と書かれたメモがあって、彼の荷物はなくなっていました。残ったものは捨ててほしいともメモに書いてあった。身勝手な男ですよね」
だが、彼女は数ヶ月たった今も、ひょいと彼が戻ってくるのではないかと思うことがあるという。「ごめん、冗談だよ。やっぱりきみと結婚したい」と言いながら。
「8年も一緒に生活していて、最後はこんなにあっけなく終わるなんて……。私たちの関係は何だったのかと考えたくもなりますよね」
マキさんの目が潤んでいる。恋愛は片方が終わりだと思ったら、そこが最後なのだが、それにしてもあまりにあっさりしている。彼自身は葛藤があったのかもしれないが、それは彼女にはまったく伝わっていないのだから、彼女が自分の存在価値を疑うようになるのもやむを得ないだろう。
恋愛を終わらせるにも、ある種のスキルが必要なのではないだろうか。もう好きでなくなったのならそれを伝えつつも、感謝の言葉を送るとか。のちのち相手を苦しめるような別れ方は人間性を疑われる。とはいえ、「きれいな別れ」などめったにないのも事実。人の気持ちは変わるものの、恋愛をうまく終わらせるのはむずかしい。