■「笑い」を売る芸人は、なぜうつに要注意なのか?
先日、ネプチューンの名倉潤さんがうつ病に罹患しており、芸能活動を約2カ月間休業することを発表しました。「笑い」を商売にする芸人が、うつ病による休業を公表するのは珍しく、復帰後の仕事にも影響することが心配されます。
しかし、過去に罹患したうつ病闘病の苦しみを公表した芸人は、たくさんいます。たとえば、ナインティナインの岡村隆史さん、コント赤信号の渡辺正行さん、NON STYLEの石田明さんなど。それ以外にも、公表せずにうつ状態やうつ病を治療している芸人、罹患歴のある芸人はたくさんいるものと思われます。
芸人は「陽キャ中の陽キャ」と言われる人たちなのに、実はうつ病には要注意の職種です。調子が悪くても、常に新ネタ、笑いを生み続けなければならないこと。人気のアップダウンが激しいこと。キャラクターイメージの管理が求められること。ハードスケジュールでも笑顔で営業し続けること。こうしたプレッシャーを抱えながら舞台やカメラの前に立ち続けることは、想像を絶するストレスでしょう。
■芸人だけじゃない!「ムードメーカー」もうつに注意
芸人にかぎらず、いわゆる「ムードメーカー」と言われる人も、実はうつに注意をしなければならないキャラクターです。自発的にやっていても、人の気持ちに配慮し、明るく楽しいムードで場を盛り上げていくことには、非常にたくさんのエネルギーを要します。
もちろん、人に喜んでもらえることが、ムードメーカーのエネルギー源ではあります。しかし、一度ムードメーカーのペルソナをつけたら、いつでもどこにいても、その役割を期待されてしまいます。そして、サービス精神旺盛の彼らは、一生懸命その期待に応えようとしてしまいます。これを繰り返すことでエネルギーが枯渇し、疲弊してしまうのです。
■芸人、ムードメーカーは感情労働。バーンアウトに注意
実は芸人や職場のムードメーカーは、広い意味で「感情労働」と呼ばれる仕事です。感情労働とは、決められた感情の管理を求められる仕事のこと。カウンセラーである私もその一員ですが、笑いを職業にする芸人はもちろん、社内や営業先で明るい雰囲気づくりを期待される職場のムードメーカーにも、感情の管理が求められます。
そして、感情労働者に多いのが「バーンアウト」、つまり燃えつき症候群の末のうつ病です。アメリカの心理学者、マスラックはバーンアウトをよく起こす人には、次の3つの症状が見られると言いました。
一つ目は、情緒的消耗感。つまり、心身ともに疲れ果てたと感じることです。二つ目は、脱人格化。人を人とも思えなくなるような感じです。三つ目は、個人的達成感の減退。取り組んでもやりがいを得られないという感じです。
芸人やムードメーカーが疲弊していく過程でも、こうした感じを覚える人が多いものと思います。人を笑わせたいのに、疲れきってその気になれなくなっていく。人が大好きなのに、なぜか人を大事に思えなくなっていく。やりたくてやっているのに、「なぜこんなことをしてるんだろう」と感じていく……。こうしたジレンマを覚えながら、同じペルソナをかぶり続けていると、いずれは心身共にダウンしてしまうでしょう。
■笑いの才能を守るために、オンオフの切り替えが必要
人を笑わせ、楽しませる力は、誰にでも与えられている才能ではありません。天賦の才を守っていくためには、ペルソナをほどよいバランスで使っていくことが必要です。そのためには、芸人は舞台を降り、ムードメーカーは職場を離れたら、表では見せない自分に戻っていいのだということです。つまり、オンオフの切り替えが必要です。周りもペルソナを脱いだ彼らのオフの時間を認め、そっとしておいてあげるのがマナーです。
そして、本人も気負わず、サービスし過ぎなくていいということです。芸人やムードメーカーには元来、そこにいるだけで場の雰囲気を明るくできる不思議なパワーがあります。しかし、気負って固くなり、疲れて消耗してしまうと、持ち前のパワーが発揮できなくなってしまいます。すると、その人が本来持っている面白さ、楽しさが失われてしまいます。
このように、芸人やムードメーカーを続けていくには、自分の心の状態を知り、オンオフを切り替えて、メンタルヘルスを守っていくことが必要です。ネプチューンの名倉さんを始め、うつになった芸人が勇気をもって病気の体験を公表したことが、芸人やムードメーカーの心身の健康を大切にし、彼らの天賦の才を守っていくためのムーブメントへとつながっていくことを願ってやみません。