「痴漢に出会ったら安全ピンでその手を刺せ」と保健室の先生にアドバイスされた……とのエピソードを綴ったツイートがネット上で賛否を交えての論争となったり、それを受けて(なのか)文具用品などを手がけるメーカー・シャチハタが「痴漢対策ハンコ」発売を検討している……など、痴漢業界(「業界」ではない?)が、にわかに騒がしさを増している。そんななか「まずは実際に、こんなさまざまなケースの痴漢被害があるという事実を知ってもらうことが必要」と、とある女性プロイラストレーターが、自身のフォロワーが経験した痴漢行為をイラストで一覧化したツイートが話題を呼んでいるという。そして、その作者である「なご(@ikng_0)」さんへの直撃インタビューを、ORICON NEWSが配信しており、なかなかに興味深く拝読させていただいた。
大阪に在住するフリーランスのイラストレーターさんで、普段は企業パンフレットの漫画や挿絵、書籍の表紙などを請け負っているとのこと。なるほど、今回の“痴漢イラスト”をザッと眺めてみても、その最小限に抑えられた達者な線や適確なデフォルメは、近ごろツイッターを中心とするSNSに氾濫している“素人漫画”とは一線を画す、“プロの仕事”だと確信できる。とりあえずは本インタビュー中で、とくにゴメスの琴線に触れた箇所を、いくつか抜粋しておく。
(「どうしてこのようなイラストを描こうと思ったのか?」との質問に対して)SNSでもいろんな被害を発信する人が増えましたが、私の周りでも痴漢被害を人に話しても信じてもらえないことが大半です。(中略)だからまず信じる信じない以前に、「こういう被害もある」という事実を知ってもらうことが第一歩だと思いイラストにしました。
(「イラストを描く上で気をつけたことは?」との質問に対して)できるかぎり無機質さを心がけました。はじめに描いたイラストは被害者を女性にしてしまいましたが、被害者も加害者も年齢性別は関係がないことを表したつもりです。
(「反響を見ての感想を?」との質問に対して)男性が「触るだけが痴漢ではないと知った」と教えてくださって印象に残っています。(中略)「助けたいけど本当に被害にあっているのか判断がつかない」そういう声もあったので、被害にあわないことが一番ですが、被害にあってもきちんと助けを求められる環境になればなと思います。
まず、一連のイラストを熟視して「つむじを指で撫でる」「ガラガラなのに密着して座る」「肩に顔を乗せる」「女性の両足に足を捻じ込む(男性の靴には盗撮用小型カメラが仕込まれている)」「つり革で手が重なる」「髪を食べる(不自然に触る)」……諸々、こうも痴漢にはバリエーションがあるのか、という点に驚愕した。まさに「お尻や胸を触るだけが痴漢ではない」のである。
次に、ここまで痴漢行為が多様化しているのなら、前出のインタビューにもあったとおり、我々善良な市民がそれを痴漢とジャッジするのはますます困難、イコールたやすく助け船も出せなくなってしまう。いや、「我々善良な市民」だけではなく、たとえば「ガラガラなのに(心なしか)男性が密着して座ってくる」だとか「(超満員電車のなかで)肩に男性の顔が乗っかってくる風になってしまう」だとか「(やはり超満員電車のなかで)女性の両足に男性の足を捻じ込まれてくる」だとか「瞬間だけつり革で手が重なった」だとかの行為は女性本人ですら、それを痴漢と特定するのは、かなりの勇気を要するのではなかろうか。
ツイッター上では、「駅にポスターとして貼って欲しい」との声も多く集まっていると聞くが、私も現状だとネットだけじゃなく、より公に向けて「痴漢」……というよりは「女性が嫌がる行為」として、これらを地道に啓蒙していくしか道はないと考える。もちろん、イラストレーターの起用は「なご」さんに──そこは電鉄会社サイドに念押ししておきたい。この手の注意喚起を促すイラストを作成する場合、得てして男性側を“でへでへ系”や“悪魔系”へと過剰比喩する勧善懲悪型のパターンが多いのだけれど、それより「なご」さんのイラストのような“する側”と“される側”の喜怒哀楽を極力排除した、ある意味では血が通っていない、淡々とした画風のほうが、そのおぞましさはかえってダイレクトに伝わるもの……あと、「なご」さんも指摘しているとおり「痴漢に年齢性別は関係はない」のだからして?