大学を卒業して有名企業に入ったが人間関係で挫折。以来、職を転々としながら「鬱々とした日々」を過ごしたナオタロウさん(42歳)。30代半ばで一念発起して、契約社員からこつこつと実直に働き続け、40歳を目前にして、ついに正社員となった。次は結婚を目指したいと言っていたのだが……。
■相手は年上で子どももいる
正社員になったとき、会社は彼にアドバイザー的役割をする先輩社員をつけてくれた。それが6歳年上のケイコさん。明るく元気なケイコさんに引っ張られるような形で、彼は着実に仕事を成し遂げていった。
「正社員になって半年後にちょっと大きな契約をとったんです。ケイコさんのアドバイスのおかげなんですが。そこから彼女との距離が急速に縮まりました」
ケイコさんは高校生と中学生を育てるシングルマザー。実母と4人で暮らしているため、家庭のことをあまり気にせず、残業も出張もこなしている。
「実は彼女に誘惑されてホテルへ行ってしまったんです。もちろん彼女は魅力的だし、年上であることも僕は気にしていませんでした。ただ、1度関係をもったら、急に恋人気取り、というかあたかも結婚するようなことを周囲に言い始めたんです」
ナオタロウさんも結婚願望はあった。だが、まずは仕事で一人前になりたかったし、先輩であるケイコさんに完全に主導権を握られることにも違和感があった。
「早めに言っておいたほうがいいと思って、僕はあなたのことが好きだけど、今のところ結婚するつもりはないと告げたんです。すると彼女は、『あなたが私を誘惑してホテルに連れ込んだって会社に言うわよ』と態度を豹変させた。僕がおののいていると、『ウソよ。でも私はあなたが好きなの。だから冷たくしないで』と」
どうやら恋愛に関しては海千山千の彼女、マジメなナオタロウさんが太刀打ちできる相手ではなかった。
■上司に相談してみたが
彼は、このままだと逃れられなくなると思いながらも彼女の半分脅しのような態度に逆らえず、3度ほど関係を重ねた。
「ただ、これ以上はまずいと思い、僕を正社員に推してくれた上司に相談したんです。親身に相談に乗ってくれた上司ですが、『いっそ結婚しちゃえ』なんて冗談も言われて。それを聞いたとき、このままそういう流れに乗ったほうがいいのかなと一瞬、考えちゃいましたね。結局は上司が『乗り気じゃない結婚はしないほうがいい』と。そりゃそうですよね。あのときは僕、相当混乱していたんだと思います」
上司が間に入ってくれて、ケイコさんとナオタロウさんは仕事上の仲間という関係を取り戻した。ケイコさんが彼のアドバイザー役というのも解除された。
ところが納得したはずのケイコさん、最近、また彼を誘惑してくるのだという。少し距離を置いたことで、「やっぱりあなたのことを男として好きだとわかったの」と告げられた。彼もケイコさんに惹かれるところはある。
「惹かれるけれど、僕の頭の中で警報器が鳴っている。彼女に引っ張られたらろくなことがない、と。だから今、必死に誘惑を断っています。結婚しなければいけない状況になるのはやはり困るので」
結婚していきなり父親の役割はできない。そもそも4人でできあがっている家族の中に飛び込む勇気は、やはり彼にはないのだ。
「どこまで誘惑を断りきれるか。これは僕に与えられた試練だと思います」
まじめなナオタロウさんだから、聞いているこちらも不安になった。