また新しい「〜ハラ」が、ちまたに出回りつつあるらしい。「ボヘハラ」ってヤツである。
「ボヘハラ」の「ボヘ」は、「ボヘミアン・ラプソディ」の略であるらしい。『ボヘミアン・ラプソディ』とは、只今大ヒット中の、世界的ロックバンド『クイーン』のボーカルで、1991年に45歳の若さでこの世を去ったフレディ・マーキュリーを、俳優のラミ・マレックが熱演する伝記映画のことである。で、このクイーンの代表曲と同名の映画を、
・絶対観るようにと強いる
・観た感想を述べさせる
・ 「あそこは史実と違うんだよなあ」と映画を細かくディスる
・ 「クイーンの現役時代はよかったなあ」と懐かしむ
・ 「クイーンと比べるといまの音楽は薄いねえ」と評論家ぶる
……みたいな感じで、職場などの若者をマウンティングするおじさんたちの行動を「ボヘハラ」と呼ぶらしい。
クイーンにドンピシャでハマったのは、まさに私と同じ年齢ぐらいの50代世代から40代あたり……といったところだろうか。私はチューリップからいきなりジャズとクラシックへとすっ飛んでしまった、少々変わった音楽遍歴の持ち主ゆえ、ロックにどっぷり浸かった経験がないため、当時のクイーン人気のすごさがイマイチよくわからないのだけれど、とくに初期の『ガリレオ』とかのクラシカルなアプローチやフレディの圧倒的な声量を武器とする人間離れしたノドや運動神経を超越したトリッキーな動きに並みならぬ斬新さを感じ、驚愕したことだけは、うっすらと覚えている。
ちなみに、私はこの「ボヘハラ」なる言葉をまったく耳にしたこともなかったのだが、まさに今、こういった事例どおりの“ハラスメント”を50代の男性上司から受けている20代OLなら一人知っている。その上司から『ボヘミアン・ラプソティ』の試写会のチケットをもらって「必ず行くように」と諭され、その次の日にはランチに誘われて感想を述べさせられ、有無も言わさずクイーンのCDを合計5枚渡されたのだという。
ただし、彼女はそれ以来、大のクイーン信者となってしまったので、もちろんこのケースは「ハラスメント」には該当しない。むしろ「善行」と称賛されてもよい“おせっかい”だったのではなかろうか。
「自分がフェバリットとしているなにかの素晴らしさを誰かに伝えたい」という想いは、大なり小なり老若男女万人が胸に秘めている欲求である。そして、たまたま『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしたことによって、おじさんを中心とする世代のそんな潜在的衝動がつい爆発してしまっただけなのだ。
「あそこは史実と違うんだよなあ」と映画を細かくディスったり、「クイーンの現役時代はよかったなあ」と懐かしんだり、「クイーンと比べるといまの音楽は薄いねえ」と評論家ぶったり……と、それ程度のことは許して差しあげても、聞き流してあげてもかまわないではないか。可愛いもんじゃないか?
おじさんだからウザイのではない。うっとうしい人間からされたらソイツがたとえタメだろうが年下だろうが「ウザイ」し、恋人や敬愛する上司からされたら「微笑ましい」──つまりが、人間の好き嫌いに特化した問題に過ぎないわけで、コレを安直に「〜ハラ」扱いする姿勢こそを私は糾弾したい。まあ、誰にでも彼にでも片っぱしからヤルのではなく、相手を見てピンポイントで攻めるくらいの配慮、感性は持ちあわせてはほしいのだが……(笑)?