最近、噛む力や飲み込む力が衰えた高齢者らに向けて、吉野家が食べやすい牛丼などを発売したそうです。
Q.こうした「やわらかい食事」というのは、高齢者や病人向けの食事として以前からありましたが、健康な人にとっては、何かメリットといえるものはあるのでしょうか? 一般的には、咀嚼して唾液をたくさん出したほうがよい気もしますが、実際は……?
とのご質問をいただきました。
■「やわらかい食事」のメリット
病院勤務の管理栄養士の立場から申し上げますと、働き盛りに人気の吉野家さんで、こういったやわらかい食事を提供してくれると、超高齢化社会の現代では非常に助かります。
高齢者のなかには、外食しづらいため外出をためらう人も少なからずいらっしゃるでしょう。そんな時、吉野家に行けば食べ慣れた味のやわらかい食事にありつけるとなれば、外出しやすくなると思います。
■健康な人にメリットはある?
一方、働き盛りの健康な人にとって、これらの「やわらかい食事」にメリットがあるかと言えば、何もありません。こう言っては身も蓋もありませんが……。
なぜなら、“具材を小さく切って”“舌ですりつぶせるまで刻んだ”……これはいずれも病院や高齢者施設等での「噛めない人」向けの対応です。「噛めない人」というのを、もう少しかみ砕いていうと「入れ歯が合っていない」「噛む力がない」「噛む動作はできるが、時間がかかりすぎて疲れてしまう」などの「噛む」ことに関する不具合が単一または複合して起こっている状態です(「飲み込み(ごっくん)」とは区別して考えています)。
そこまで細かくせず、見た目には働き盛りの人と変わらない食事を食べている人であっても、実際には通常メニューもかなりやわらかく煮込んだものを提供しています。
それを看護師や介護士などに試食してもらうと「べちゃべちゃで美味しそうには見えない」と評価されてしまいます。しかし、それは「噛める人」の意見。噛めない人にとっては、そのやわらかさが「きちんと噛めて食べやすい」食事であることも珍しくありません。
吉野家のやわらかい食事の話に戻りましょう。
こうした“やわらかメニュー”が高齢者や噛む機能の弱い人向けであることは分かったけれど、ウチのおじいちゃんは“具材を小さく切った”ものと“舌ですりつぶせるまで刻んだ”もの、どちらを選べばよいのか迷うこともあるでしょう。その場合は、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会から出されている「嚥下調整食学会分類2013」などを参考にしながら、かかりつけの医師や、口腔外科、歯科医の先生と相談されるとよいでしょう。
この学会からは、食事にトラブルを抱えている子供向けの情報も発信されているので(発達期 摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018(PDF))、同様に参考にしてみてください。
■健康な人が重宝するシーンもひとつ…
ここまで書いてきて、健康な人がやわらか食を使えるシーンを1つだけ思い出しました。「歯が治療中で痛む」「歯が抜けそうで痛い」というような、あまり固いものを食べたくないタイミングでは使えるかもしれません。
ただ、吉野家さんは同じ味付けを狙っていると思いますが、「テクスチャー(噛みごたえ)」などで別の料理になってしまうもの。吉野家のメニューとはいえ、「噛める人」にとっては、さほど美味しい食事には感じられないと思います。
もちろん、働き盛りがおじいちゃんに付き合ってやわらかい食事を食べても問題があるわけではありませんが、加熱はほどほどにしておかないとビタミン等の破壊も多くなりますし、固いものが噛めるのであればしっかり噛んで食塊を作ったほうが健康でしょ?といわれれば、その通りです。
歯の健康はそれだけ大事だということを、心に留めておいてください。