ノンフィクションライター亀山早苗は、多くの「昏(くら)いものを抱えた人」に出会ってきた。自分では如何ともしがたい力に抗い、世の中に折り合いをつけていくため彼らが選んだ行動とは……。今回登場するのは「覗き」をやめられない男性。彼が「犯罪者」にならずに生きている理由とは。
■「覗くこと」が自分には必須
老舗のハプニングバーには、いろいろな性癖やどうにもならない昏いものを抱えている人がやってくる。特に創生期のハプバーはそうだった。アキラさん(37歳)は、「覗きが好き。覗きをしないと生きていけない」と話してくれた。
「夏の公園で覗きをやって警察につかまりそうになったこともあります。このままだと社会人としてダメになる。そう思っていたとき、こういうハプバーがあると知って」
彼はカーテンに隠れてこっそりと他人の性を覗く。だが勃起も射精もしないのだという。
「脳内変換してイクんです。それがいちばん気持ちいい」
セックスという行為を自分がすることには何の興味もないのだという。ただ、覗きながらカップルの心理やドキドキ感を妄想できる。そうすることで脳内に快感物質が「ザバッと」広がっていくのがわかるのだという。
■この場所があってよかった
彼は週に1回はそのハプバーに通ってきていた。いつでもゆっくりお酒を飲みながら、ひとりで店の雰囲気を楽しんでいる。そして店内で何かしらハプニングが始まると、こっそり覗くのだ。目の前で繰り広げられていても、どこかから「覗く」スタンスを崩さない。
「覗いてはいけないものを覗くことで満足感があるんです。覗かないとダメなの」
彼はそう言って笑った。自分の変わった嗜好、性癖を話すことができてほっとしているかのようだった。
「いつからこうなったのかわからない。気づいたら覗かないと生きていけない気持ちになっていたんです。20代のころは恋人がいてセックスしたりもしていたけど、セックスを気持ちいいと思ったことはない。恋人のためにやっていたようなもので、本当ならしたくなかった。30代になってからは恋人もいませんが、覗きができれば僕自身は満たされます」
ごく普通の、というか世間一般でいえばエリートといってもいいくらいの学歴をもち、有名企業に勤める彼。だからこそ、自分の社会的立場もあって公園での覗きを我慢せざるを得なかった。
「この場所がなかったら、僕は完全に犯罪者。風俗で覗き願望を満たしてくれるところもあるけど、僕は風俗では快感を得られないんです。やっかいな性分ですよね」
我ながら困った性癖をもつ人が、ごく自然に満たされる場所があることは重要である。にこっと笑った彼のチャーミングな顔が忘れられない。