オトナな女性の情報アプリ『TRILL』が、『合コン中、女子同士で合図するための「秘密のサイン」9パターン』なるタイトルのコラムを配信していた。
- 「今日(の合コン)はハズレだから早く帰りたい」のサイン→ノンアルコールビールを注文する
- 「そろそろ席替えしない?」のサイン→おしぼりを三角に畳む
- 「作戦会議やるから全員集合」のサイン→トイレに行くとき女子の肩に触れる
- 「この人タイプだから応援」のサイン→ドリンクのストローを目当ての男子に向ける
- 「いい感じだから2次会も行っちゃおう」のサイン→記念写真を撮るときに裏ピース
……ほか、合コン中、女子メンバー内“だけ”で意思疎通を図るため予め決めておいた、男子サイドにはさとられないよう工夫を凝らした共通認識しやすい仕草の代表例を9つ、紹介した内容である。
我々男子が女子に囲まれながらのほほんとホロ酔い気分で仕事なり趣味なりの自慢話や無邪気なY談に興じているスキにも、裏では、女子のあいだでは絶え間なく利害関係を調整するサインが飛び交い、熾烈な情報戦が繰り広げられているんだなぁ、と感心……を通り越して、少々背筋が薄ら寒くさえなってしまった。
……とは言え、我々男子たちだって、いくら表面上では「のほほん」を演じていても、こういった「女子サイドにさとられないような合コン中のサインを交換し合う」ケースは、ままあったりする。私の周囲でよく使われるのは、野球でお馴染みの「ブロックサイン」だ。
簡単に説明すれば、体のパーツのどこかで「キー」を決め、そのキーの直後に触れたパーツを“イキ”とするシステムのことを言う。たとえば、「キー」が「右手首」で、「ベルト部分」が「トイレで作戦会議」、「右肩」が「2次会GO」、「口元」が「1次会で終わりにしよう」、「右頬」が「右側の子がタイプです」、「左頬」が「左側の子がタイプです」、「おでこ」が「正面の子がタイプです」……だったとしよう。そして、私が「左肘→右肩→口元→右手首→左頬→右頬→おでこ」の順で自分の体のパーツを触れれば、正解は「左の子がタイプです」になる。おしぼりだとかストローだとか裏ピースだとかと比べればはるかに複雑極まりない高度な伝達戦術ではあるものの、一つ致命的な弱点もなくはない。
ただでさえ高度な伝達戦術であり過ぎるがゆえ、時間が経つごとに各人のアルコール摂取量が増えていくにつれ、「サイン見逃し」が多くなってしまうのだ。それどころか、酔いが進めば進むほどサインを出す相手はおろか、サインを出す本人すらがどこがキーでどこがなんのサインだったか、わけがわからなくなってしまい、たいがいがなし崩し状態と化し、そうなれば必死でブロックサインを出そうと試み続けている者は、もはや単なる挙動不審な男、「怪しげなパントマイマー」にしか女子の目には映らないのである。
もちろん、私らだって馬鹿じゃない。そこらへんのリスクに関しては十分に承知している。でも、やめられないのは、万が一の確率(笑)でサインが通ったとき、つまり、そのブロックサインを受けた相手が「了解」のサインで返してくれたとき(※「了解」のサインは通常「キャップを被っている者はそのツバを軽く触れる」「ネクタイをしている者はそのネクタイを緩める」「ジャケットやスーツを着ている者はその襟を正す」「シャツを着ている者はその袖をめくる」だったりする)の快感がたまらないから、極論で申せば、ブロックサインが合コンの行く末を左右しようが徒労で終わろうが、そんなことはどーだっていいのだ。
なにより重要なのは、合コン直後の反省会──その場に集った敗残兵たちが「オマエ、オレが一生懸命サイン出してるんだから、ちゃんとコッチ見ろよ!」「オマエこそ、オレがせっかく隣の子口説いてるのにチマチマ動いてるんじゃねーよ!」「オマエ、キー間違ってたでしょ?」「あれ、今日のキーは喉ぼとけじゃなかったっけ?」……と詰り合いつつ、よりチームワークを深め、次の草野球の試合へと皆一丸となって臨むのであった。