
しかし、公式データ上の学費(3年総額約440万円、月平均約12万2000円)をじっくり見ていくと、少し印象が変わります。日々のやりくりを工夫すれば、「うちの年収でも、意外と手の届く範囲かもしれない」と思えてくる数字だからです。では、この「目に見える学費」さえ何とか工面できれば、安心して通わせられるのでしょうか。
ファイナンシャルプランナー(FP)の結城誠氏が、実際に慶應普通部に通わせたOBや保護者へヒアリングを行ったところ、公式データだけでは見えない「もう1つの学費の壁」が浮かび上がってきました。年収800万円世帯が直面する、名門校進学の「知られざる現実」を解説してもらいました。
慶應義塾普通部「3年間の学費」公式データ
まずは、慶應普通部の公式ホームページに掲載されている最新の学費データを確認してみましょう。・1年生:約175万4000円(入学金34万円、独自の物品代約10万円等含む)
・2年生:約127万3000円
・3年生:約136万7000円
・【3年間の学費総額】:約439万4000円
中学校の3年間だけで約440万円、月平均に換算すると約12万2000円が固定で口座から消えていく計算になります。
「この学校へ支払う最低限の学費だけでなく、入学後に必要となる留年防止のための補習塾代などを加味すると、毎月教育原資として『月15万円』を用意できれば、数字上は通わせること自体は可能です。しかし、これはあくまで『学校に納める最低限のお金』の話。実際の保護者たちの実感値は、ここからさらに跳ね上がります」(結城氏、以下同)
FPに聞いた「年収800万円」家庭の現実判定
「当初、月15万円の学費が捻出できる家計構造であれば、子ども1人の場合は進学可能(〇)というシミュレーションをしていました。しかし、実際に慶應普通部に子どもを通わせた複数の保護者やOBにヒアリングを重ねたところ、結論を覆さざるを得ませんでした。世帯年収800万円での進学判定は、子どもが1人であっても『×(不可能)』というのが、現場の声を踏まえたプロとしてのリアルな判定です」机上の計算では「月15万円」で足りるはずの慶應ライフ。なぜ、年収800万円世帯にとっては「×」という厳しい現実になってしまうのでしょうか。結城氏は、公式パンフレットには絶対に載らない「隠れた支出」が家計を直撃するからだと指摘します。
公式パンフレットには載らない「隠れた4つの高額支出」
実際に慶應普通部に通わせていた保護者たちが「通わせるために実質的に必要だった」と口をそろえる金額は、月15万円ではなく「年間約250万円(月平均で約20万円強)」という数字でした。その内訳には、名門校ならではの事情が深く絡み合っています。1. 親同士の交際費(食事代)の負担
「名門校ならではの密な付き合いがあり、保護者同士のランチ会や食事会など、親同士の交際費が年間を通じてかなり発生します。周囲の富裕層の金銭感覚に合わせる必要があり、地味ながら家計の大きな負担になります」2. 子どもの「任意参加行事」への支出
「慶應普通部では、学校が企画する任意参加の行事やイベントが多々あります。これらはあくまで『任意』ですが、周囲の学生の多くが参加するため、子どもが行きたがれば親としては出さないわけにはいません。こうした課外活動費が、月々の学費とは別ルートで次々と引き落とされることになります」3. 授業は素晴らしいが、それでも発生する「内部推薦対策の塾代」
「慶應普通部の授業自体は非常に画期的で素晴らしく、本来であれば『塾に行く意味を感じない』ほど充実しています。しかし現実には、成績が伸び悩んでいる生徒の補習塾としてはもちろん、高校・大学へと進学する際に『法学部』や『医学部』といった一握りの人気学部の内部推薦枠を勝ち取るため、学内評定対策の専門塾へ通う家庭が非常に多いのです。この『付属校ならではの塾代』が月3万~5万円ほど重くのしかかります」4. 金銭面が理由で子どもが味わう「肩身の狭い思い」
「最も考慮すべきは子どもの心理です。お小遣いの額や、長期休みの旅行、友人同士の遊びのインフレなど、年間250万円規模の教育・生活原資を家庭側で用意してあげられないと、子ども自身が周囲とのギャップに悩み、学校生活で肩身の狭い思いをしてしまうリスクがあります。これらをすべて年収800万円から捻出するのは、困難と言わざるを得ません」【手取りの現実】一馬力と共働きで変わる限界値
実際の必要経費が「月20万円(年間250万円)」にまで膨らむとなると、同じ「世帯年収800万円」でも、一馬力か共働きかによる手取り額の差が致命傷になります。・夫一馬力(年収800万円):毎月の手取り 約42万~45万円
・夫婦共働き(夫500万円+妻300万円):毎月の手取り 約48万~51万円
「夫一馬力の場合、毎月の手取り40万円台前半から、リアルな必要経費である20万円を差し引くと、残りはわずか20万円強。ここから家賃や家族全員の生活費を捻出するのは、物理的に不可能です。
一方で、夫婦合算で800万円の共働き家庭であれば、税負担が分散されるため手取りが月5万円近く多くなり、月20万円を教育費に回しても30万円前後の生活費が残ります。一馬力よりは可能性が開けますが、それでも貯蓄に回せる余裕はほぼゼロになり、急な出費に対応できない自転車操業状態に陥るリスクが高まります」
目先の年収額ではなく「本当の必要経費」を見て判断する
「東京都民であれば、中学3年間は所得制限なしで都独自の『私立中学校等授業料軽減助成金(年額12万円 ※令和8年度)』が受け取れ、高校からは国の授業料無償化もフルに活用できます。制度面の追い風は確かにあります。しかし、慶應普通部進学において本当に試されるのは、目に見える『授業料』が払えるかどうかではなく、入学後に周囲の富裕層と足並みをそろえ、子どもに引け目を感じさせないための『年間250万円の原資』を維持できるか否かです。
世帯年収800万円という環境下では、親の就労強化(さらなる共働きでの世帯年収アップ)や、祖父母からの教育資金贈与といった強力なバックアップがない限り、名門の門を叩くのは、やはり『厳しい』と言わざるを得ません。目先の憧れだけでなく、入った後のリアルな生活費までをロジカルに算出した上で、慎重な進路選択を行ってください」
