~採れたての味と、農家さんのこだわりを知る~
「市川」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?東京へのアクセスが良く、住宅地が広がる街というイメージを持つ人も多いかもしれません。実は市川市には、もう1つの知られざる魅力があります。それが、「梨」です。
市川市は、都心から気軽に訪れることができる梨の産地です。夏から秋にかけて、市内ではたくさんの梨が収穫されます。今回は、地元で梨を栽培している重田辰雄梨園の重田裕介さんにお話を伺いました。
梨がどのように育てられているのか、農家さんはどんなこだわりを持っているのか。そして、市川の梨をもっと楽しむにはどうしたらいいのか。取材を通して見えてきた、市川の梨の魅力をご紹介します。

photo by 重田辰雄梨園
実は「市川の梨」は身近な存在
市川の梨が身近なのは、市内のあちこちに直売所があり、都心からすぐの場所で梨が育てられているからです。
梨づくりの歴史は古く、江戸時代にはすでに栽培されていたといわれています。2007年には「市川のなし」として地域ブランドにも認められました。
現在は、大町や大野町など市の北部を中心に梨園が集まっています。住み慣れた街のすぐそばで、長く受け継がれてきた梨づくりが続いているのです。
直売所は約130軒。作り手の顔が見える梨
市川市には、梨の直売所が約130軒あるとされています。市場を通さず、農家から直接買えることが、市川の梨の特徴の1つです。
重田さんによると、市内の梨農家は、それぞれが独自の方法で梨を育てています。
「1戸1戸、栽培方法が違うんです」
重田さんは、市川の梨についてそう話してくれました。
同じ市川の梨でも、作り手によって手のかけ方や味わいが異なります。そんな多様性も、市川の梨ならではの面白さです。
都心からすぐの台地に広がる梨園
市川の梨園がある地域は台地の上に位置しているため、水はけが良いことも梨栽培に適しているそうです。
市川市では、梨の季節になると梨園や直売所を訪れ、採れたての梨を楽しむことができます。都心から少し足を延ばすだけで、普段の生活ではなかなか味わえない、農家さんが育てた梨のおいしさに触れられるのも、市川ならではです。
重田辰雄梨園・重田裕介さんの梨づくり
20年間の会社員生活から梨農家へ

photo by 重田辰雄梨園
今回お話を伺った重田裕介さんは、もともと梨農家だったわけではありません。
約20年間会社員として働いた後、地元の梨園を継ぐことになり、2020年頃から梨栽培に携わっています。
現在は、重田さんとご両親の3人で梨を育てています。
重田辰雄梨園の畑は約8,800平方メートル。収穫量は年によって変わりますが、9~10トンほどにもなります。
幸水・豊水・かおり・新高(にいたか)、4品種の味の違い
収穫シーズンは7月下旬から9月中旬頃。栽培している品種は、「幸水」「豊水」「かおり」「新高」の4種類です。
幸水は甘みが強く、豊水はほどよい酸味が特徴です。かおりは緑色の見た目と豊かな香り、さわやかな味わいが魅力で、新高は濃厚な甘さが楽しめます。
同じ「梨」でも、品種によって味や香りがこんなに異なります。
スーパーで何気なく選んでいる梨も、その差を知ってから食べてみると、いつもとは違った楽しみ方ができそうです。
「おいしい梨」を作るためのこだわりは、肥料とせん定
梨は、ただ実がなるのを待って収穫する果物ではありません。一年を通して、さまざまな作業が必要になります。
その中でも重田さんがこだわっているのが、肥料とせん定です。
まず肥料は、梨の木の力を引き出すために、惜しまず与えているそうです。
そして、もう1つ特徴的なのが「せん定」です。
せん定とは、枝を切ったり整えたりして、木の成長や実のつき方を調整する作業です。
重田さんのやり方は少し独特で、枝を一度折り、そこからねじって曲げていきます。
一般的には折らずにねじるだけのことが多いそうですが、重田さんは自分なりの方法で梨の木と向き合っています。
一見すると何気ない梨の木にも、農家さんが培ってきた技術や工夫が詰まっています。
今回の取材で、私たちはそんな「梨を育てる側」の視点を知ることができました。
梨を「買って食べる」だけじゃもったいない!

photo by 重田辰雄梨園
では、私たちは市川の梨をどう楽しめばいいのでしょうか。
せっかく採れたての梨を手に入れても、保存の仕方や切り方次第で、おいしさの感じ方は変わってしまいます。
そこで、梨を育てるプロである重田さんに、家庭でできるおいしい食べ方を教えてもらいました。
保存のコツから切り方、ちょっとしたアレンジまで、すぐに試せる方法をご紹介します。
保存は常温、食べる30分前に冷蔵庫へ
重田さんによると、直売所で買った梨は、食べる直前に少しだけ冷やすのがポイントです。
長時間冷蔵庫に入れておくと、甘みを感じにくくなるそうです。基本的には常温で保存し、食べる30分ほど前に冷やし始めるのがよいとのことです。
くし形・約1cmの薄切りで、シャキッとした食感に
さらに、梨は「切り方」でも食感が変わります。
重田さんのおすすめは、くし形にして、約1cmの薄さにそろえること。薄めにすることで、梨ならではのシャキッとした歯ごたえをより楽しめるそうです。
せっかく市川で梨を買うなら、農家さん直伝の食べ方を試してみるのも楽しそうです。
実はアレンジしてもおいしい、市川の梨
梨は、生で味わうだけではありません。
重田さんが教えてくれたのが、コンポートやジャムです。
甘く煮た梨をパンやヨーグルトに乗せると、普段とは違った味わいになります。スムージーにするのもおすすめだそうです。
「梨=そのまま食べるもの」というイメージがありますが、少しアレンジするだけで、梨の新しいおいしさに出会えます。
市川の梨を直売所で買って、自宅で好きな食べ方を試してみるだけでも、いつもの休日とは少し違った「市川の楽しみ方」になるのではないでしょうか。
梨を通して広がる、市川のつながり
重田さんは、梨を育てるだけでなく、地域とのつながりも大切にしています。
その関わりは梨園の外へと届き、さらに市川の梨を次の世代へ残していくことにも目を向けています。
梨を中心に、どんな輪が生まれているのかを見ていきましょう。
梨の枝が魚のすみかに。三番瀬(さんばんぜ)の「ボサ漁」
例えば、東京湾や漁港に関わる活動をしているNPO法人「三番瀬フォーラム」には、2021年から参加しています。そこで取り組んでいる「ボサ漁」では、水中に枝を沈めて魚のすみかを作ります。その材料として、せん定で切り落とした梨の枝を、ボサの材料として提供しているそうです。
カフェのドリンクや劇団の公演にも
また、下総中山(しもうさなかやま)にあるカフェ「goodie!」では、重田さんの梨を使ったドリンクも提供されています。
さらに、「ICHIKAWA黒松カンパニー」という劇団とは、梨を題材にした公演に向けて解説や指導を行うなど、地域とのさまざまな交流が生まれています。
梨は、単なる「市川の特産品」ではありません。作る人、使う店、魅力を伝える人。その間をつなぐ存在にもなっているのです。
「市川の梨」を未来につなぐために
現在、市川の梨園は減少傾向にあります。
重田さん自身も、「梨園を続けたい」「続けたほうがいい」と話していました。
そのために重要なのが、後継者を育てることです。梨づくりを担う人が少なくなれば、今ある市川の梨の風景も少しずつ失われてしまいます。
だからこそ、その魅力を次の世代に伝えていくことが大切です。
重田さんが目指しているのは、「市川の梨」とは何なのかを見つめ直し、その歴史や背景まで含めて語れるストーリーを作っていくことです。
私たちが普段食べている梨にも、長い年月や、農家さんの技術、地域とのつながりが込められています。
そのことを知るだけでも、一口の梨の味わい方は変わるかもしれません。
都心から気軽に行ける!市川で梨の魅力を見つけよう!
市川市は、東京からのアクセスが良い街です。梨園までは駅から別途移動が必要ですが、少し足を延ばせば、梨づくりの現場や農家さんのこだわりに触れることもできます。
直売所で採れたての梨を買ったり、梨を使った商品を探してみたり。ただ観光スポットを見るだけではなく、その街で作られているものを味わってみること。それも、大学生の私たちだからこそ見つけられる、市川の楽しみ方の1つだと思います。
今回の取材を通して、私たちが一番印象に残ったのは、梨そのもののおいしさだけではありません。
1つの梨ができるまでに、農家さんの工夫や努力があり、その梨をきっかけに地域の人とのつながりが生まれていることでした。
梨の時期が過ぎても、また次のシーズンに訪れてみたくなるような「知ってから行きたくなる市川」を、ぜひみなさんにも味わってほしいと思います。
電車でふらりと行ける市川で、いつもの街の少し知らなかった魅力を探してみませんか?
重田辰雄梨園の基本情報
所在地:千葉県市川市大野町1-92
アクセス:JR武蔵野線「市川大野駅」から徒歩約25分
直売期間:例年7月下旬~9月中旬頃(その年の収穫状況によって異なります)
栽培品種:幸水、豊水、かおり、新高
※直売の営業日・営業時間・販売内容は変わる場合があるため、訪問前に梨園へ確認することをおすすめします。
出典・参考
千葉商科大学 山田ゼミ
余暇プランナー
山田ゼミナールでは「地域資源を活用した観光ツアーの企画運営」をテーマに活動しています。観光ビジネスの現場や観光地へのフィールドワークを通して、現在の観光の潮流を把握しながら、今求められている観光関連のサービスとは何かを考えています。企業や地域との連携にも熱心に取り組んでおり、これまで京成バス千葉ウエスト、東京スカイツリー、日本航空、千葉県市川市、愛媛県大洲市、秋田県仙北市など多くの企業や自治体と連携してきました。

