この度、東京2020パラリンピック競技大会の開催から5年が経つのを記念し、国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドリュー・パーソンズ会長、コリーン・レンエグゼクティブディレクターが来日。8月28日から30日の3日間にかけ、同大会のレガシーとしてバリアフリー化や共生社会に向けた取り組みが進む現場を視察した。その中で、29日の午後には、江戸東京博物館にて「パラ応援大使とIPC会長が語る東京2020レガシーの未来」と題した意見交換会を実施。各界で活躍するパラ応援大使たちと、現在のレガシーと未来について意見が交わされた。
東京2020大会のレガシーを共生社会の実現に活かす
この日は、パーソンズ会長、レンエグゼクティブディレクターのほか、東京都が運営する「パラスポーツの振興とバリアフリー推進に向けた懇親会」で活動するパラ応援大使から、東京都市大学の稲垣具志准教授、パラアスリートの二條美穂(車椅子テニス)、根岸慎志(車いすバスケットボール)、三浦浩(パラパワーリフティング)、タレントの猪狩ともか(仮面女子)、高橋みなみ、料理人の野村祐介(精進料理 醍醐)の7名が出席した。

会場では始めに、東京都の担当者が「パラスポーツが障害の有無に関わらず、いつでも、どこでも楽しめるポピュラーなコンテンツに」「大会を契機に、東京全体で、ユニバーサルデザインのまちづくりを展開」という2つの視点から、東京2020大会を契機に都市のレガシーとして各方面で推進されている、共生社会に向けた取り組みを紹介。同大会で認知拡大を得た競技・ボッチャが、パラリンピック後、都主催の大会で参加チームが2.5倍に増えた点、学校でのパラアスリートとの交流やパラスポーツ体験が定着した点、パラスポーツボランティアマッチングサイトの登録者が年々増加している点、競技場などでインクルーシブな環境作りが進んでいる点、鉄道駅などでのバリアフリー化の促進などがあげられた。
パラスポーツを見つめてきた7人が感じるレガシー、そして未来への課題は?
続いて、パラ応援大使の7名が、それぞれの専門領域の見地から、東京2020大会のレガシーに感じる点、または今後の課題について意見を発表。
そのうち、都市交通計画とユニバーサルデザインを専門とする稲垣准教授は、始めに「パラスポーツを楽しむという観点においては、競技場やグラウンドなどへのアクセシビリティをいかに大切にするかは重要な視点だ」と発言。その上で「専門家の目から見て、パラリンピックの招致、開催が東京のバリアフリー化に拍車をかけた」とし、「道路を作る人など間接的に関わる人が、パラスポーツ当事者の声を聞いて街を計画することが当たり前になった」と述べた。

次にパラアスリートの一人である三浦は、東京2020大会後、「東京都パラスポーツトレーニングセンター」が開設されたことを話題にあげ、「選手がより良い環境で継続して練習できるようになり、定期的な合宿や研修会もできるようになり、競技力向上に繋がっている」と話した。しかし、一方では「選手を支えるサポートスタッフや競技を運営する人たちへの継続的な資金は十分ではない」とも述べ、「選手だけを支援するのではなく、選手を支える人、そして競技を支える仕組みも含めて、みんなで育てていくことが大切だ」と提言。

猪狩は、子どもたちがパラスポーツと触れ合う機会の重要性を主張。「日常生活で子どもたちに会うと、『どうして、こんなところで車椅子に乗っているの?』と素直な反応を感じることがあるが、パラスポーツを体験するイベントで子どもに関わると、『どうして車椅子に乗っているの?』『怪我したの?』などと普通に聞いてくれる」と自らの体験を述べ、「パラスポーツを通じて、さまざまな障害を持っている人と関わることで、障害に対しての理解度が深まると思う」と話した。

最後に発言した根岸は、この前日に有明アリーナで視察が行われた、車椅子バスケットボールチーム「NO EXCUSE」と児童との交流を振り返りながら、「パラリンピックには、人と人を繋ぎ、社会を変える力がある」と熱い思いを披露。「車椅子バスケチームのメンバーは、東京パラリンピックでの日本選手の活躍を見て、自分も代表選手になりたいと思って育った」と話した上で、「ただ、5年間チャレンジをし続ける中で彼らの中に変化が起こり、夢の持つことの素晴らしさを多くの人たちに共有したいという思いが芽生えていった」と述べ、選手から子どもたちに夢や憧れが継がれていく姿に「これこそがレガシーだと思う」と語った。

レガシーを生きたものとして次の時代へ
後半は、7名の発表を受けて、IPCの二人がコメント。
その中で、パーソンズ会長は「皆さんが本当に誇らしく思うべきことは、あのような大会を5年前に開催できたことです」と大会そのものの成功を改めて讃えつつ、「レガシーというのは、偶然起こることではありません。しっかり計画することから生まれるのです」と発言。そして「皆さんはしっかりと計画を立て、5年が経ったところでもレガシーの話をされている。過去の話だけでなく、ここからどこに行くのかを大切にしていることも十分に感じました」と話す。

そして「レガシーというのは、一つの組織や社会の一部分だけに属するものではない」として、ここまでの視察を振り返り、「昨日視察した有明では、地域社会、民間企業も協力してイベントを行っていました。そのようにレガシーとは万人の責任であり集団の責任であると意識することが最も大切なことではないか」と自らの考えを述べた。
また、「開催都市にとって大切なのは、レガシーが言葉だけではなく生きたものとして、どんどん動いていくこと。それこそが変化につながることであり、今回私が東京で目の当たりにしたのは、その事実でした」と、東京の取り組みを評価。最後は「パラリンピックを開催したいという都市に『どこを目指せばいいか』と問われたら、それは東京です」と話し、「かつてイギリスでパラリンピックが開催された後に障害者雇用が100万人増えたという数字が残っているが、この素晴らしい数字を超える国が出るとしたら、それは日本だと思っています」と、今後の取り組みにもエールを送った。
IPCとパラ応援大使の熱い思いがあふれた、この日の意見交換会は、東京2020大会のレガシーを強く確かに次の時代へと繋ぐ機会になったようだ。なお、3日間にわたる視察は翌日も続き、IPC特別親善大使である稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾とパラアスリートが共演するスペシャルステージなどが行われた。
