慌ただしい毎日の中でも、心がふわりと温まるバレンタインがやってきました。
ビール好きのライターたちが紡ぐ、バレンタインにまつわる三篇のコラム。
お気に入りのビールを片手に、ゆったりとお楽しみください。
バレンタインはごほうびデー
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駅から家への帰り道、チョコレートのポップアップショップやパティスリーが出しているバレンタインスイーツを横目に、スーパーのクラフトビールコーナーに立ち寄った。赤やピンク色のデザインに自然に目がいくのは、きっとバレンタイン仕様の街のせい。
手にした『リンブルグス・ウィッテ ロゼ』は、家に戻ってすぐに冷やした。いつもと変わらない日常だけれど、いつもは買わないようなチョコを買ったので器にのせてみる。
ビールをグラスに注ぐと、しゅわしゅわと音を立てながらピンク色の液体が現れた。
ひと口飲むと、フレッシュで甘酸っぱいラズベリーの風味がはじける。誰に見られているわけでもないのに、「うん、完璧だ」と満足気になってしまう。
こんなささやかな幸せに、言い訳しなくていいのがバレンタインの特権ですよね。
『リンブルグス ウィッテロゼ』
- 〇ビアスタイル:フルーツビール(ホワイトエール)
〇アルコール度数:3.5%
〇取扱店舗:成城石井等
〇URL:https://brouwerijcornelissen.be/
〇醸造所: コーネリッセン醸造所
散る星雲の夜に
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そこにはいつも淡い期待を抱いてしまう。
私の中の雫の音色と共に、この小さな華やぐ気持ちは不揃いで脆い。 きっとこの現実世界は相容れない事の連続で溢れている。
いつだって貴方を前にすると笑えない。
なぜだろう。
『哀しみ』×『恋』
そこにはきっと未練を生み出してしまう。
夢を信じたいけど、きっと現実世界はそれを許してはくれない。 それでもいい。
眠ればきっと貴方と一緒に居られる。
夢物語に彩られたその瞬間は、まるで宝石箱のように一面が煌めく。 そして、この胸に留めていたくて星にかけらを拾い集める。
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瞼を開けると、そこは寄り道の多い現実の扉。
そして私は今宵もこの一本に手を伸ばす。
赤みがかったきめ細やかな泡を眺め、唇への泡の感触を感じる。
鼻にかぐわしく、口に清々しい贅沢な一瞬。
そして、心に響くこの旋律の音を頼りに、私は今日も貴方を追い求める
『アダムとイブ Hoegaarden Adam &Eve』
- 〇ビアスタイル:ベルジアン・エール
〇アルコール度数:8.5%
〇URL:https://www.nipponbeer.jp/lineup/adam-eve/
〇醸造所:ヒューガルデン醸造所
あの夜の告白
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北風になびくスカートから覗く膝を氷のように冷やしながら、私は彼女に呼び出されあのカフェバーに向かう。
彼女とは中学高校と同じクラスで、大学生になってから東京でルームシェアをしている。
私たちは報告したいことがあると、いつもこの店にお互いを誘うのだ。
「突然どうしたの?」
「バイト終わりにごめん…話があってさ…」
「ハートランドでいいよね?あとはいつものフレンチトーストと…」
このお店で初めて知った「ハートランド」。
おしゃれなボトルでかっこいい味のハートランドとレーズンパンのフレンチトーストを合わせるのが、2人のお気に入りだった。
すると彼女は言いにくそうに答えた。
「ホットミルクで…」
「体調悪いの?」
猫背な彼女は背筋を伸ばし真剣な眼差しで私を見て言った。
「妊娠したんだ」
帰り道、私は漏れ出る白い息に乗せて呟いた。
「これからどうなるんだろ」
「…全然分かんない」
2月の夜の寒さは私たちに現実を突きつけてくる。
「あ…今日バレンタインデーじゃん」
「なんか、すごい告白しちゃってごめん」
頬を刺す東京の風を跳ね返すように私たちは大きく笑った。
彼女は大学を辞めて結婚をした。
急なことでお互い別れを惜しむ間もなく引っ越しに追われ、彼女は春には遠くへ行ってしまった。
ーーーーーー
あの日から21年が経った。
彼女のお腹の赤ちゃんは「みゆ」と名付けられ、ビールを嗜む大学生に成長した。
東京で一人暮らしをするみゆと私は年の離れた友達のような関係で、たまに2人であのカフェバーで飲んでいる。
バレンタインの今日、みゆはママに内緒の相談があると私を誘ってきた。
「みゆは、ハートランドとフレンチトーストと…」
「で、何かあったの?」
「えっとね…好きな人ができたの…」
みゆの耳が赤くなった。
2人のハートランドは月のように輝いている。
撮影協力:プティコフレ(Petit Coffret)(Googleマップ)
『ハートランドビール』
- 〇ビアスタイル : ピルスナー
〇アルコール度数 : 5%
〇製造者 : 麒麟麦酒株式会社
〇HP : http://heartland.jp/
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