爽やかな春と眩しい夏に挟まれているのに、じっとりと薄暗い梅雨。
梅雨入りすると、人々の表情も少しだけ暗くなります。
四季は「来る」と表現することが多いのに、梅雨は「入る」もの。
移りゆく四季の流れの中で、太陽の光が届かない「トンネルに入る」気持ちを表しているかのようです。
でもこの季節を待ちわびている梅雨の主役達がいます。
傘は雨を弾き癒しの音を奏でます。
カエルは喜び大きな声で唄います。
プクッと潤ったカタツムリは、雨に濡れて色気を増した紫陽花の上でくつろぎます。
そんな梅雨の主役達にスポットライトが当たっているビール5選をご紹介します。
1. 善きことはカタツムリの速度で動く
『トゥルブレット』(カラコル醸造所)
スタイリッシュなカタツムリのラベルが特徴的な「カラコル醸造所」。ベルギー南部のナミュール州にある小さな醸造所です。
「カラコル」とは「かたつむり」を意味し、何にも動じず、あわてない事やゆっくりと話すというナミュール州の人々に因んで名付けられたそう。
なんとカラコル醸造所は薪で醸造釜を熱していて、この方法はベルギーでもこの醸造所のみと言われています。
じっとりするこの季節に特に飲みたいのは、レモンを連想させる爽やかな酸味を持つホワイトビールの「トゥルブレット」。
「濁り」を意味する「トゥルブレット」は、多様な味わいがあるベルギービールのなかでも、これに似たビールはないと言われるカラコル醸造所だけの味わい。
ゆったり呑気に歩いているように見えるカタツムリ。
しかし実は汗水をたらしながらしっかりと一歩一歩前に進んでいるのです。
それは、手間を惜しまず汗を流し醸造釜に薪をくべる醸造家さんと重なります。
小さいながらも並々ならぬこだわりを持って醸造される、唯一無二のカラコル醸造所のビール。
雨の音を聞きながらゆっくりと味わってみたい1杯です。
『トゥルブレット』
- 〇ビアスタイル:ホワイトビール
- 〇アルコール度数:5.0%
- 〇販売ページ:https://beeronline.jp/collections/caracole-brewery
- 〇醸造所:カラコル醸造所
2. 赤い傘に隠された秋田の物語
『古代米アンバー』(秋田あくらビール)
子どもの頃に好きだった優しい絵本のようなタッチで描かれる、赤い傘がトレードマークの「秋田あくらビール」。
傘のパッケージの理由は、「あくら」のネーミングの由来でもある「アクア×蔵」をヒントに、「水=雨=傘」と想像を展開した地元の秋田公立美術大学の学生さんによるデザインとのこと。
5種の定番ビールの赤い傘のなかには、それぞれの物語がありそうです。
傘で顔が見えないからこそ想像は広がり、自分なりのドラマを考えてしまいます。
中でも今回おすすめするのは、強い雨の降るなか赤い傘をさす男女が描かれた「古代米アンバー」。
古代米を使用したアメリカンアンバーベースのライスビールは、カラメル麦芽不使用のため、見た目に反してスッキリ。ホップは秋田県横手産IBUKI、アメリカ産シムコーホップを使用し、華やかなアロマも楽しめます。
傘のなかの男性はスーツ姿。
2人はきっと仕事終わりに待ち合わせをしたのでしょう。
女性はパールのネックレス。
今日はちょっとだけ贅沢なディナーなのかもしれません。
赤い傘をさすのは女性の方。
「ごめん、ちょっと仕事が長引いちゃって。あれ傘ないの?」
「う、うん…朝は降ってなかったから」
「天気予報見てなかったの?夕方から降るって」
付き合って間もない2人の距離は、赤い傘のなかでいつもよりちょっとだけ近くなります。
それはさっき降り出した雨のせいなのか、それとも男性の作戦なのか。
秋田の美しい水と自然の恵みを口いっぱいに感じながら、それぞれの赤い傘の物語を想像してみてはいかがでしょうか。
【関連記事】“赤い傘”が新しいトレードマークの「秋田あくらビール」。ラベルに秘めた想いとは?
『古代米アンバー』
- 〇ビアスタイル:アメリカンアンバーベースのライスビール
- 〇アルコール度数:4.5%
- 〇HP:https://www.aqula.co.jp/wp/
- 〇醸造所:秋田あくらビール
3. 麦芽猫からの愛の傘
『UMBRELLA』(CHROA)
不気味カワイイ動物達のパッケージ。ぶっ飛んでいるようで私たちへの愛が溢れるポエム。
熱いこだわりを持って造られる最高の味わいビール。
ビールを1本の芸術作品として楽しませてくれるCHROA。
今回ご紹介するのはちょっと怖そうなチャトラ猫のパッケージの「UMBRELLA」。
深みのある赤銅色に、うっすら色付いた泡。
優しく爽やかなアメリカンホップの柑橘香が立ち昇り、十分なモルトの甘みとコク、十全の苦み、キレの良い喉越し。
リッチでモルティーなアメリカンスタイル・レッドエールです。
パッケージにはこんなポエムが書かれています。 「赤銅色の液体は密に群がるインターネッツなお前たち。
誹謗中傷のない世界とスマホ対応型の愛。
そして宇宙規模の忖度を感じたい現代人に捧げる麦芽猫からのアイラブユー。
この雨社会で大人を演じる全ての役者たちよこの傘を持っていくがよい。」
なんて心強いメッセージなのでしょうか。
晴れの日も曇りの日も、私たちは外に出れば常に世間の雨に打ちひしがれて生きているのではないでしょうか。
大人を演じ己を演じ、もう体は満身創痍。
そんな時この「UMBRELLA」は心の傘となってくれるのです。
「クロアニスト」と呼ばれている熱狂的ファンも多く、発売するとすぐにsold outになってしまうCHROAのビール。
こまめにHPや公式Twitterをチェックして、心がずぶ濡れな時に味わって欲しい1本です。
『UMBRELLA』
- 〇ビアスタイル:アメリカンスタイル・レッドエール
- 〇アルコール度数:5.0%
- 〇原材料:麦芽(ドイツ製造・ベルギー製造)、ホップ
- 〇HP:https://www.chroa.jp
- 〇製造者:株式会社夢麦酒太田
4. カエルのいざない
『僕ビール君ビール』(ヤッホーブルーイング)
愛嬌のあるカエル(通称:かえるくん)のパッケージでお馴染みのヤッホーブルーイング「僕ビール君ビール」。
レモンやマスカット、ハーブを思わせる軽快な香り。
酸味が抑揚を生み出す奥深い味わいを持ちながら、アルコールは4.5%に抑えた、開放的な時間に寄り添う、軽快な飲み口が特徴的なセゾンスタイル。
自分の時間を大切にし、仕事終わりの時間もアクティブに楽しみたい……というニーズに応えるため「リフレッシュ」をテーマにしているというこのビール。
かえるくんが、アクティブで躍動感たっぷりに楽しんでいるのが伺えます。
かえるくんの背景には、通天閣や横浜のインターコンチネンタルホテルらしき建物も。
キャップをかぶり、軽やかに各地を飛び回っている様子のかえるくん。
「雨で外に出たくないなんて言ってる場合じゃない!人生楽しまなきゃ!」
かえるくんは手を伸ばし「さあ!」と私たちを外へ連れ出してくれます。
かえるくんに誘われて、まずは軽快なセゾンをゴクリ。
スッキリなセゾンでリフレッシュ。
ほろ酔いの体で雨を弾きながら、いつもよりちょっぴり空いている街中をかえるくんと飛び回ろう!
『僕ビール君ビール』
- 〇ビアスタイル:セゾン
- 〇アルコール度数:4.5%
- 〇原材料:大麦麦芽・小麦麦芽・ホップ
- 〇HP:https://yohobrewing.com/bokukimi/
- 〇醸造所:株式会社ヤッホーブルーイング
5. 今年も紫陽花は咲き誇る
『Hydrangea』(O/A NAGASAKI CRAFT BEER)
九州本土の最西端に位置する異国情緒ある長崎で「地元に根差した私達らしいクラフトビール造り」を目指している「O/A NAGASAKI CRAFT BEER」。商品名の「Hydrangea(ハイドランジア)」とは紫陽花のこと。
紫陽花は、長崎市の市花です。
長崎の西洋医師であったシーボルトは、植物のなかでも特に紫陽花を愛したそう。
さらに、愛人で出島の遊女だった「お滝さん」の名前を紫陽花につけ、自身の著書で「Hydrangea otaksa」という学名で紹介したのだとか。
そのため長崎では今でも「おたくさ」という名称で親しまれているそうです。(残念ながら紫陽花の学名は別の学者が「Hydrangea macrophylla」とすでに付けていた品種だったため、正式な学名を「Hydrangea otaksa」にすることは叶わなかったそう)
フローラルな香りのセンテニアルというホップを使用し、柔らかな口当たりでしっとりとした味わいに仕上がっています。
白地に青が映える美しいパッケージ。
日本髪をした横顔の女性は、可愛らしい紫陽花をある建物のなかに吹き飛ばします。
この建物は、長崎市にあるシーボルト記念館のように見えます。
シーボルト記念館は、オランダ・ライデン市にあるシーボルト旧宅をイメージ化した建物。
数ある植物のなかでも日本の植物である紫陽花を特に愛し、その花に愛する「お滝さん」の名前をつけるシーボルト。
そんな2人は娘も授かりますが、シーボルト事件によって引き裂かれてしまうのです。
このパッケージの女性は、国外追放となったシーボルトへの想いを紫陽花に乗せて届けようとするお滝さんの姿なのかもしれません。
シーボルトとお滝さんが生きた時代は200年近く前。
しかし時代を超えて、毎年この季節に紫陽花は咲き誇ります。
しっとり濡れる紫陽花を眺めながら、梅雨の空を思わせるHazyなSession IPAを一口。
あなたの想い出す人は誰でしょうか?
ピッチピッチ チャップチャップ グイグイグイ♪
麦が熟するこの時期に降る雨は「麦雨(ばくう)」とも呼ばれています。
麦雨は、ビール好きの私たちの舌に喜びをもたらしてくれる麦達がパンパンに熟し収穫されることを知らせる喜びの雨。
そんな雨の音を聞きながら、梅雨の主役達と共に雨のビール時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。