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【レビュー】尊厳とは何か──テレンス・マリックの映像の魔術師ぶり溢れる『名もなき生涯』


『ツリー・オブ・ライフ』等で知られる巨匠、テレンス・マリック


初の実話映画化に選んだのは、第二次世界大戦中、強い信念に殉じ、ナチスに加担することを拒んだひとりの農夫、フランツ・イェーガーシュテッターの生涯だ。




愛する妻と3人の娘とともに、山と谷に囲まれたオーストリアの小さな村、ザンクト・ラーデグントで暮らすフランツ。


マリック組の常連である撮影監督イェルク・ヴィトマーによる自然光によるロングショットは、風による木のざわめきや、ミニバイクのエンジン音、子供が背丈程の植物の中を歩く音といった、フランツの日常に根付く音も鮮明に吸い込み、惚れ惚れする程の美しい


さらに、アカデミー賞ノミネート常連のジェームズ・ニュートン・ハワードによる音楽が、その美しさを五臓六腑に沁みわたらせる。



その美しい映像における、愛情と思いやりと温もりと慎ましさが溢れた日常に尊さが感じられれば感じられる程、それらが奪われた物語後半の過酷さが胸に迫り、勾留されたフランツがどの道を選択するかという決断への重みが増してくる。


自らの信念とは違う行動に出れば、愛する家族とともに、またあの幸せで穏やかな生活に戻れるのだ。


「尊厳」とは何かを重く美しく突きつける名作。


 


『名もなき生涯』 あらすじ


第二次世界大戦時、ヒトラーへの忠誠を拒絶し、ナチスに加担するより自らの信念に殉じ、後に列福された一人の農夫がオーストリアに実在した。彼の名はフランツ(アウグスト・ディール)、山と谷に囲まれた美しい村で、妻のフランチスカ(ヴァレリー・パフナー)と3人の娘と暮らしていた。戦火が激化し戦争に駆り出された彼は、ヒトラーへの服従を頑なに拒む。直ちに収監され裁判を待つフランツを、フランチスカは手紙で励ますが、彼女自身も村で裏切り者の妻としてひどい仕打ちを受け始める──。


■監督:テレンス・マリック

■キャスト:アウグスト・ディール、ヴァレリー・パフナー、ブルーノ・ガンツ ほか

■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン


Ⓒ2019 Twentieth Century Fox


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