ナチス政権下のドイツによる犯罪についてのドキュメンタリー作品は少なくないが、本作の特長はそのインタビューの対象者だ。
カメラが映し出すのは、ユダヤ人をはじめとする被害者側の証言ではなく、当時ナチスに直接的に、あるいは間接的に協力した言わば加害者側のドイツ人高齢者たちの生の証言だ。
ルーク・ホランド監督は自身の祖父母がホロコーストの犠牲者であることを少年時代に知る。
その後、祖父母を殺害した人間を探そうとするもほどなく不可能であることに気付き、加害者側の立場の人間の今の認識を丁寧に聞き出していくことに注力した。
10年もの期間を費やして250以上のインタビューを行った監督は、映画完成後一般公開前に病でこの世を去った。
証言は、武装親衛隊の士官、ドイツ国防軍兵士、強制収容所の警備兵、軍事施設の職員、近隣住民など実に多岐にわたる。
彼らの口から出る言葉は後悔、弁明、さらにはヒトラー支持など様々だ。
インタビュアーとして彼らを攻撃して追い詰めるのではなく、丁寧に辛抱強く質問して自然に発言を引き出していくホランド監督の手法。
そこにはむしろ加害者側から自発的に出る言葉をそのまま届けることにこそ本作の大きな意義があると信じて疑わない、監督の強い信念がひしひしと感じられる。
そして、ホロコーストという史上最悪の人道犯罪に関する監督のそんな真摯なアプローチは結果として見事な効果を発揮している。
中東問題や最近のウクライナ侵攻。
誰を政治のリーダーに選ぶかは極めて重要だ。
だが選んでしまったリーダーが人の道から外れていった時、人々は自分に何ができて、また何をしないことができるのか。
その時、人はどのような行動を取る傾向にあり、どのように自分を納得させるのか。
この映画は、「悪いことは悪い」と子供には教育することのできる大の大人たちの罪の意識や責任への向き合い方を生々しく拾い上げる。
それはまさに21世紀になっても今なお愚行や蛮行を繰り返す人間という生き物を考察するのにうってつけの教材だ。
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