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【レビュー】大戦中の前代未聞の作戦に関する驚きの実話が今明かされる! ―『オペレーション・ミンスミート -ナチを欺いた死体-』


第二次世界大戦中、連合国軍側は、ヒトラー率いるナチスの猛攻に相当な苦戦を強いられていた時期があった。

そんな事実を背景に、ヒトラー暗殺を計画する物語やナチスの支配から決死の脱出を試みる物語が映画化されることは多いが、ヒトラーを「騙す」物語はどうだろう?

それも生者ではなく死体が彼を騙すとしたら? そしてそんな奇想天外な作戦が過去に実際に行われていたとしたら?

本作は1943年にイギリスの諜報部MI5が実行した奇想天外な作戦に関する実話の映画化だ。

イギリスは、当時シチリアを征服していたナチスに対し、ドイツ本国を叩く足がかりとしての真の標的はシチリアではなくギリシャだと思い込ませる作戦を思いつく。

ただその方法が奇策も奇策、何と「高級将校に仕立てたニセの人物の溺死体に、ギリシャ攻撃を記したニセの機密文書を持たせて地中海に流し、その死体を引き上げさせてナチスの手に渡るよう仕向ける」というものだった。

この嘘に嘘を重ねた死体は、それ自体静かで動かないものの、その実、メガトン級の爆弾だ。

この爆弾をナチス側にしっかりと届けるまでの過程、そこでの知的でスリリングな駆け引きにも映画は鋭く迫る。

戦争下において架空の話を利用して難を逃れようとする実話の映画化の名作としては、アカデミー賞作品賞も受賞した『アルゴ』を思い浮かべる人もいるかもしれない。

6人の大使館員をイランから救出するために架空のSF映画の制作業務をでっち上げるという話だが、同作と本作に共通するのは「物語」の力だ。

「物語」が人を欺き、人を救う。

「ミンスミート(イギリス伝統の保存食の意)作戦」と名付けられたその作戦は後に何万人もの兵士たちの命を救うことになるが、登場人物たちがその「物語」のディテイルを作り込む過程が何とも興味深い。

架空の人物と互いに想いを寄せ合う架空の恋人。

2人の間で交わされた架空の手紙による架空のやり取り。

そうして「物語」の魔力はそれに関わる人の心をも狂わせ、予期せず人と人を近づけたりもする。

大きすぎる最重要任務とは別のサイドストーリーとして、「物語」の創出が主人公たちの心に波風を立てるサブストーリーも本作の見どころの一つなのだ。

このミンスミート作戦、その発案者は何とジェームズ・ボンドで知られる007シリーズを後に書き上げたイアン・フレミングだったという事実も驚きだ。

だが何よりも観る者の心を捉えるのは、人が一つの死体といくつもの手紙や文書に込めていった「物語」が現実の世界の物語を大きく変えていったという、その点だろう。

戦争には当然ながらたくさんの負の側面がある。

歴史的に大きな価値がある遺跡を平気で破壊してしまうのも戦争に取り憑かれて「想像力」を失った人間だ。

戦争を肯定するわけではないが、一方で、同じ戦争でもこの映画が描くのは、人が「想像力」と「創造力」を遺憾なく発揮して窮地を打開しようとする純粋な姿だ。

その姿が伝えるものは、人間讃歌ともいうべき感動と希望だ。

 

『オペレーション・ミンスミート -ナチを欺いた死体-』

■監督:ジョン・マッデン
■出演:コリン・ファース、マシュー・マクファディン、ケリー・マクドナルド 他
■配給:ギャガ

© Haversack Films Limited 2021

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