香港アクション映画、特にポリスアクションの名手であるベニー・チャン監督の遺作が公開されている。
立場の異なる主役を熱演するのは、『イップマン』シリーズで知られるドニー・イェンと、彼が『孫文の義士団』でも共演したニコラス・ツェー。
ドニー・イェンが正義感の強い警察官のチョンを演じ、ニコラス・ツェーは警察組織への復讐という狂気に取り憑かれた元警官のンゴウを演じる。
かつては親しい同僚だった2人だが、過去のある事件を契機にその関係性に深い溝ができてしまい、ついには現在進行形のンゴウによる復讐計画を巡って決定的に敵対することになる。
自分に決して嘘をつかず、家族や仲間想いで、法を犯す者へは一切妥協しないチョン。
まさに警察の鑑のような人物だが、ともすれば融通が効かないとも言えるその真面目すぎる性格が端緒となり悲劇の幕が開く。
他方、警察組織に忠誠を尽くし、チョンを強く慕っていたンゴウだからこそ、自らが裏切られたと感じた後にその身の内に育てていく恨みや狂気の大きさは計り知れない。
警察官と犯罪者という単純な利害の相反とは異なり、2人の関係性の変化が背景事情としてあるからこそ、互いに譲らない激しい戦いの中にドラマチックな味わいや深みを十分に感じることができる。
法律、家族、警察内部のルール、チョンは多くの守らなければならないものに囲まれている。
一方で、ンゴウは目的達成のために手段を選ばず、ひたすら攻撃あるのみといった感じで、一切のしがらみから解放され、まさに縦横無尽にチョンを追い詰めようとする。
このように2人が現在立っているスタンスの決定的な違いが、その対決の緊迫感を絶えず高めている。
もちろんアクションシーンの迫力だけとっても圧巻の連続で見せ場に全く事欠かない。
これまで数々のカンフー映画などで圧倒的な体術で多くの人を魅力してきたドニー・イェンだが、そんな彼にニコラス・ツェーがアクションで決して引けを取っていないことも驚異的だ。
2人のアクションは瞬きする暇がないほど速く、高い緊張感が途切れることのないまま、物語は怒涛の勢いで一気にラストまで突き進んでいく。
ポリスアクションに対する並々ならぬベニー・チャン監督の想い。
その想いがまさに烈火となって2人の俳優を通してフィルムに焼き付けられたような1本だ。
『レイジング・ファイア』
■監督・脚本・プロデュース:ベニー・チャン
■主演・アクション監督・プロデューサー:ドニー・イェン
■主演:ニコラス・ツェー チン・ラン
■配給:ギャガ
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