SNSや動画広告の普及を背景に、企業が動画マーケティングへ投資する機会は増えている。
一方で、映像そのものの完成度は高くても、問い合わせや購買、ブランド認知の向上といった成果につながらないケースもある。背景には、動画制作とマーケティング戦略が別々に進められているという問題もあるという。動画制作や広告運用を手掛けるVIM株式会社代表の三原淳氏に、企業動画を事業成果につなげるうえでの課題について聞いた。
「きれいな動画」を作るだけでは足りない
企業が動画を制作する目的はさまざまだ。
商品の認知拡大、採用、ブランディング、問い合わせ獲得、ECでの販売など、目的によって動画の内容や配信方法は大きく変わる。
三原氏は、動画制作を始める前に「誰に、何を伝え、その後どのような行動につなげたいのか」を整理することが重要だと話す。
同氏はこれまで企業経営にも携わり、コインランドリーチェーン「mammaciao(マンマチャオ)」の事業運営などを経験してきた。こうした経験から、動画についても制作物単体ではなく、商品やサービスの販売プロセス全体から考える必要があるとみている。
例えば、動画広告を見た人が興味を持っても、その先のウェブサイトが分かりにくかったり、購入までの手順が複雑だったりすれば、成果にはつながりにくい。動画の完成度だけではなく、その後の導線まで含めて設計する必要があるというわけだ。
ただし、売上や問い合わせ数など短期的な指標だけを追えばよいわけでもない。ブランド認知や企業イメージの形成など、効果が現れるまで時間のかかる目的もある。
動画ごとに何を成果指標とするのかを明確にすることが重要になる。
制作会社と広告会社が分かれることで起きる「ズレ」
企業の動画マーケティングでは、映像制作を制作会社へ依頼し、その後の広告運用を広告会社や別の担当者が担うケースも多い。
役割を専門会社ごとに分けることにはメリットがある一方、制作時に想定したターゲットと、実際の広告配信先がずれるなど、工程間の連携が難しくなる場合もある。三原氏によれば、動画の企画段階から広告配信やその後の顧客行動まで想定することで、こうしたずれを減らせるという。
VIMでは、市場分析や企画、動画制作、広告運用などを一連の流れとして考える手法をとっている。もっとも、すべてを一社へ任せることが必ずしも最適とは限らない。外部企業への依存度が高くなれば、自社内に広告運用やマーケティングに関する知識が蓄積されにくくなる可能性もある。外部の専門会社を活用しながら、社内にも判断できる人材やデータを残す。そのバランスが重要になる。
「再生数」が多ければ成功なのか

動画マーケティングでは、再生数や「いいね」の数など、分かりやすい数字に注目が集まりやすい。
しかし、再生数が多いことと売上が増えることは同じではない。
例えば認知拡大が目的であれば再生数は重要な指標になるが、商品の購入を目的とする動画なら、サイトへの遷移率や購入率など別の数字を見る必要がある。採用動画であれば、応募数や採用後のミスマッチの減少などが成果指標になる可能性もある。三原氏は、動画制作前に目的を設定し、その目的に応じた指標を決めることが必要だと指摘する。これは動画に限らず、デジタルマーケティング全般に共通する問題でもある。測定しやすい数字だけを追うのではなく、事業全体にどのような影響を与えたのかまで確認する必要がある。
生成AI時代、動画制作の価値はどこに残るのか
動画制作を取り巻く環境も変わりつつある。生成AIの普及によって、画像や映像、ナレーション、台本などを以前より低コストかつ短時間で制作できるようになってきた。
今後、単純な制作作業だけでは差別化しにくくなる可能性がある。
その場合、企業側にとって重要になるのは「どの動画を作るか」以上に、「なぜその動画を作るのか」「どこで使い、どの成果につなげるのか」という設計部分になる。
一方、制作コストが下がれば、企業が短期間に大量の動画を作れるようになる。その結果、コンテンツが増えすぎて消費者に届きにくくなる可能性もある。動画を作ること自体のハードルが下がるほど、企画やターゲット設定、広告配信、効果検証までを含めたマーケティング全体の設計が問われることになりそうだ。
企業動画は、作って公開すれば終わりというものではない。
映像の完成度、配信先、その後の顧客導線、成果測定をどのようにつなげるのか。動画マーケティングが一般化するなか、企業側には制作そのものよりも、その前後を含めた運用力が求められている。

【取材協力】
VIM株式会社
代表 三原 淳
https://vim-tokyo.site/
