商品を選ぶ基準が多様化している。価格や機能だけでなく、原料の由来や生産背景、企業が掲げる考え方などを重視する消費者もいる。
こうしたなか、自社の思想や価値観そのものを商品や教育事業に組み込む企業も現れている。
株式会社NINE SENSEは、日本の素材や伝統的な暮らしの知恵に着目した商品を扱う「Kami – 神 – store」と、情報や暮らしについて考える場として「Kami – 神 – Academy」を展開している。同社代表の深見純氏に、商品に「思想」を持たせるブランドづくりと、その事業性について聞いた。
なぜ今、昔ながらの素材や暮らしに目を向けるのか
大量生産や物流網の発達によって、私たちの生活は大きく便利になった。一方、商品がどこで作られ、どのような素材が使われているのかを意識する機会は減ったともいえる。NINE SENSEでは、日本で古くから利用されてきた素材や生活文化に着目し、現代の暮らしに取り入れられる商品として提供している。
同社が運営する「Kami – 神 – store」では、「自然は不要なものをつくらない」という考え方をブランドの一つの軸としているという。深見氏は、昔の暮らしをそのまま再現するのではなく、伝統的に利用されてきた素材や考え方を、現代の生活に合わせて捉え直すことが重要だと話す。こうした「背景まで含めて商品を選んでもらう」という手法は、近年のブランドづくりでも見られる。
ただし、企業が掲げる哲学に共感する消費者がいる一方、価格や利便性を優先する層もいる。独自の思想をどこまで市場での継続的な需要につなげられるかは、事業としての課題となる。
「量子食品」という独自の商品カテゴリー

同社が展開する商品の一つに、「量子食品 Kami – 神 -」と名付けた商品がある。
これは同社が独自に用いている商品名称・カテゴリーで、日本人の生活と関わりの深い稲などの素材に着目し、現代の生活に取り入れやすい形で商品化しているという。同社の商品開発で重視しているのは、新しい素材を探すことだけではなく、これまで身近に存在してきた素材を改めて見直すことだと深見氏は説明する。
また、商品そのものだけでなく、なぜその素材を選んだのか、どのような考え方で開発したのかといった背景も合わせて伝えている。ブランド側が商品のストーリーを提示し、消費者がその考え方も含めて購入するかどうかを判断する。こうした販売手法は、機能や価格だけでは差別化しにくい市場において、一つのブランド戦略になっている。
一方で、独自の名称や概念を用いる場合には、その意味を消費者に正確に伝えることも重要になる。
特に食品や健康に関わる商品では、ブランド上の表現と、科学的に確認されている作用や効果を明確に区別する必要がある。商品の背景にある物語が購入理由の一つになるとしても、最終的には価格や品質、使いやすさなどを含め、市場から継続的に評価されるかどうかが事業の持続性を左右する。
情報が多すぎる時代に「自分で選ぶ」ことをどう支えるか
健康、美容、食、暮らしをめぐっては、SNSや動画サイトなどから大量の情報が発信されている。情報へのアクセスが容易になった一方、何を信用し、何を選択するかを個人が判断する難しさも増している。NINE SENSEでは、こうした問題意識から「Kami – 神 – Academy」という学びの場も設けているという。

深見氏によれば、一方的に特定の知識を教えるのではなく、それまで当然だと考えていた情報を見直し、自分自身で判断するきっかけを提供することを目的としている。商品販売と情報提供を組み合わせる手法は、顧客との継続的な関係を築くブランド戦略としても考えられる。
もっとも、販売する企業自身が教育や情報発信も担う場合には、その情報が自社商品への誘導になっていないかという視点も欠かせない。健康や食品などに関する情報では特に、企業独自の考え方と、研究などによって確認された事実を分けて提示することが、消費者の判断材料を増やすことにつながる。
「思想を売るブランド」は持続できるか
現在の商品市場では、機能や価格だけで差別化することが難しいカテゴリーも増えている。
そのため、企業の理念や商品の開発背景、社会や環境に対する考え方まで含めてブランド価値として提示する企業は珍しくない。NINE SENSEの取り組みも、商品だけでなく、その背景にある自然観や暮らしについての考え方まで伝えようとする事例の一つと位置づけられる。
一方、理念への共感が一時的な購買につながったとしても、それだけで事業が継続するわけではない。
品質や価格、リピート率、販路など、通常の商品ビジネスと同様の条件も問われる。また、独自性の高い概念を打ち出すほど、消費者に誤解なく伝えるための説明責任も大きくなる。企業の哲学を商品や学びの場にまで広げるブランドづくりは、消費者との新しい関係をつくる可能性がある。
その一方で、「共感」と「商品としての価値」をどう両立させるか。思想を軸とするブランドだからこそ、そのバランスが長期的な事業性を左右することになりそうだ。

【取材協力】
株式会社NINE SENSE
代表取締役 深見 純
https://kami-store.jp/
