4月の入社・転職シーズンを終え、いよいよ具体的な業務についた方も多いはずだ。新たな職場環境において業務を円滑に進める上で欠かせない存在が「マニュアル」である。日常生活やビジネスのあらゆる場面で活用されているマニュアルは、当たり前の存在として見過ごされがちであるが、その本来の意味や作成目的を正しく理解している人は決して多くない。
一部の企業では、業務マニュアルや社内マニュアルが形骸化しており、結果として従業員一人ひとりの経験や属人的なスキルに依存した業務運営がなされている現状がある。
マニュアルとはそもそも何か。その活用によって得られるメリットとは何か。逆に、マニュアルに頼ることによるデメリットは存在するのか。現代の業務環境において、本当に必要なものなのか――。
こうした疑問に対し、マニュアル作成・整備の支援を専門とする株式会社フィンテックスが、実務経験を踏まえた視点から解説してくれた。

―「マニュアル」とは何でしょうか
マニュアルは機械や道具、アプリケーションなどの使用説明書という意味と、作業手順をまとめたものという意味があります。読んだ人、見た人が全員同じレベルでやるべきことができるように、一定の成果を出せるようにした文書です。
―マニュアルはどういった目的で作成されるのでしょうか
マニュアルを作成するのは、作業効率を上げるためです。
ルールや手順、判断基準を明確にしておけば、個々がその時々で対応や判断に困りません。
たとえばどの企業にも必ずある営業活動。もしもマニュアルがなければ、見込み客の獲得・提案の仕方・商談準備・契約手順・アフターフォローなどの流れについて、営業職員が一致しないことになります。
それぞれが勝手に判断して独自のやり方で進めていたら、顧客対応に差が生じるうえスムーズに物事が進まなくなるでしょう。何らかの製作過程においても同じこと。マニュアルがなければ作り手によって商品の品質が変わってしまい、大きなトラブルにつながりかねません。
マニュアルがあるからこそ、仕事がスムーズに進み、問題発生時にはきちんとした一定の対応が可能なのです。結果的に作業効率がアップするので、企業の業績にも良い影響を与えます。
―手順書との違いを教えてください
マニュアルとよく間違えられるのが「手順書」です。
どちらも業務をスムーズに進めるための方法が記載されていますが、違いとしては対象の大きさです。
手順書:個人やチーム単位での小さな特定作業
マニュアル:業務全体に関する大きな流れや工程
手順書は、標準作業手順書(SOP)や作業標準書とも呼ばれているもので、作業の流れや細かい過程などに焦点を当てたものを指します。
たとえば、手順書をみればソフトウェアの設定が問題なく完了したり、マシンの使い方や故障時の対応がわかったります。
しかしマニュアルのように、業務全体のイメージやその工程、ノウハウ、クレームトラブル時には誰に質問するかなどについては書いてありません。
マニュアルという大きなものの中に、一部内容を抜粋してさらに詳細に記したものが手順書と言えます。
―マニュアルには何を載せるべきでしょうか
マニュアルに共通して記載すべき情報には、業務の概要 ・全体の流れ・業務や操作の手順といった項目が挙げられます。

・業務の概要
マニュアルには、業務の概要を記載する必要があります。業務の対象者や意義、業務開始前に知っておくべき基礎情報などを記載しましょう。
概要を見て業務をイメージできるように、長くなりすぎない文章と簡潔な表現を使用します。
・全体の流れ
マニュアルでは、はじめに「全体の流れ」を示します。スムーズに通して読めるように全体を構成し、目次や手順をタイトルの次に示します。
情報量の多いマニュアルの場合は、目次で「どこにどのような手順が記載されているのか」を明確に示しましょう。
文字だらけになってしまうと読みづらく、文字の大小やフォントにも注意しなければならないため、文字数は多すぎない程度を意識してください。
・業務や操作などの基準
業務マニュアルや手順書には 、業務や操作の基準も記載します。「全体の流れ」で先に示した工程や作業内容を実施する際に把握しておくべき概念・知識・ルールを簡潔に記載してください。
基準が示されていれば、作業者はその基準に沿って行動するため属人化や誤操作のリスクが防止できます。基準やルールについても、全体の流れと同じく簡潔でわかりやすく記載しましょう。
取材協力・株式会社フィンテックス
http://www.fintecs.co.jp/
取材/文 石田あかね