2022年12月28日、『INOKI BOM-BA-YE × 巌流島 in 両国』が東京・両国国技館で開催された。2ヶ月前の10月1日にこの世を去った、アントニオ猪木を追悼する格闘技イベントとして。
会場ロビーには、異種格闘技戦で猪木と対戦した選手たちのパネルが。
プロレス界初の東京ドーム大会で猪木から勝ち星を奪ったショータ・チョチョシビリ、首つりを特技とする(!?)レフトフック・デイトンなどが並んでいた。
格闘技イベントを日本に根付かせた猪木に対するリスペクトが込められているのだろう。
猪木の愛弟子たちもイベントに現れた。73歳で現役プロレスラーの藤原喜明。
猪木のIGFで活躍した小川直也。今は警備の仕事に従事する安田忠夫。
3人がリングに上がると、大きな歓声が沸き上がった。
メインイベントの第10試合は、新日本プロレス提供試合。
柴田勝頼とトム・ローラーの一戦が、30分一本勝負のUWFルール(頭部への一切の攻撃は禁止)で行われた。
MMAでの実績に勝る、元UFCファイターのローラーが序盤から柴田を圧倒。
ヒザ十字やギロチンチョークで追い込み勝利は目前だったが、トムの蹴り足をキャッチした柴田が強烈なデスバレーボム。
続くグラウンド卍固めでギブアップを奪った。
逆転勝利した柴田は「今日はアントニオ猪木に呼ばれてここに来ました。約6年前、この両国で、ほぼほぼ死にかけて、でもこうやって、同じ両国のメインで戻ってくることができました。元気があればなんでもできる。そのとおりだと思います。今日はありがとうございました!そして、会長、お疲れ様でございましたー」と絶叫。
相手の技を受け切ったうえで勝利する猪木スタイルで、メインイベントの大役を果たした。
格闘技路線に走り出した暗黒期の新日本プロレスで、猪木と接点があったジョシュ・バーネットは第5試合に登場。
RIZINヘビー級のトップの一角を担うシビサイ頌真と対戦した。久々の来日となるジョシュは現在45歳。
UFC元ヘビー級王者といえども、若さと実力が伴うシビサイを相手に厳しい戦いとなると見られていた。
開始早々、ジョシュは猛ラッシュをかけ、全局面でシビサイを制圧。
ボディへのひざ蹴りからパウンド連打で、1RTKO勝利に輝いた。
圧倒的に不利な条件にもかかわらず完勝したジョシュ。猪木の闘魂が継承された勝負だったといえよう。
試合後、ジョシュは猪木に対して「僕のコーチ、あなたは決して死なない」「先生、永遠に。猪木さんありがとうございます」と英語と日本語で感謝を述べた。
決してジョシュのリップサービスではない。本心から出た言葉である。
大会終了後、インタビュースペースに貼られていた猪木のポスターを、折り目がつかないように剥がして持ち帰るほどの猪木信者なのだから。
年齢やブランクを乗り越えてジョシュは無謀な戦いに勝ったが、負けた者もいる。
約20年前に日本でも活躍したアルバート・クラウス、メルヴィン・マヌーフ、ジミー・アンブリッツの三者。往年の力は発揮できなかったが、プロ格闘家としての存在感と生き様を見せつけた。
全試合終了後、バックステージで主催者の谷川貞治氏は「ハプニングの連続でしたよ。最後、小川直也さんが『1・2・3・ダー!!』で締める予定だったのに、酒を飲み過ぎた藤原組長が締めちゃうし」と振り返った。
今後も格闘技イベントの開催に取り組むという谷川氏。
「4月ぐらい、春に『巌流島』をまたやりたいですね。『INOKI BOM-BA-YE』は年に1回か2回ぐらい」とチャレンジ精神旺盛。
歩みを止めずに迷わず行き続ける谷川氏こそ、猪木イズムの真の継承者なのかもしれない。
取材・文=シン上田