「一番笑った」のは審査員のナイツ・塙宣之1人だけではなかった。ネットでも「ただただ何も考えずに笑った」「突き抜けていて面白かった」と声が溢れていたのは、2022年M-1グランプリ決勝で存在感を示したヨネダ2000。
2020年THE Wでは2年連続決勝にも進出したが、優勝は逃した。記録よりも記憶に残る笑いを巻き起こしたのだ。FIFAワールドカップでもサッカーボールにICチップが着けられるように、観客や視聴者のわらいを測定する機械が導入されたら、優勝だったかもしれない。笑いの大きさと審査の点数が一致しなかった。
漫才やコントのものさしにはまらないヨネダ2000の魅力に迫ってみた。
意外!誠は音楽が苦手だった
「落語はイリュージョンだ」と言ったのは立川談志だが、ヨネダ2000のネタは、コントも漫才も最後には不思議なリズムを繰り返す。そこから生まれる独特な世界観が、止まらない笑いのループを巻き起こす。
M-1でもダウンタウン・松本人志をはじめ、審査員の全員が笑いをこらえるのに必死の様子だった。
それでも松本は「最初から終わりまで、ずっと何をしているかわかりませんでした(笑)」と審査中の笑いとは裏腹の辛口な評価。松本だけでなく多くの審査員が評価に困る中、談志の弟子である立川志らくだけが97点の好評だったのもうなずける。
ヨネダ2000の笑いは、「漫才がこうあるべき」「コントはこうあるべき」といった笑いのものさし自体も破壊するようだ。その被害を被ったのは、ヨネダ2000の直後にネタを披露したグループ。ヨネダ2000の直後は確実に観客も審査員の目も破壊されており、「THE W」ではAマッソ、「M-1」ではキュウという、キャリアもある安定した腕のあるグループが敗退している。
「ペッタンコ」「アイ」をひたすら繰り返すリズム感のよさは、ミュージシャンにも評価されている。アカペラミュージシャンのヨウインヒュク氏は、1分間テンポ160キープしながらグループしていると指摘。ネタ元になったDA PUMP自体が、ヨネダのネタを完コピしていた。
さぞかしネタ担当の誠はリズム感があって、音楽的素養があるに違いない。しかし、実は誠は音楽が苦手。子どもの頃にピアノを少し習っていたが、下手すぎてすぐにやめてしまったそうだ。リズム感が良いのはネタの中だけだという。反対に相方の愛は、吹奏楽部でバリトンサックスを担当。リズムを刻むのが得意だった。
無理しているものを全部辞めたらオリジナルになった
誠(本名2022年に松本人志から誠の名前を貰い改名)と河田愛は、NSC東京の23期生の同期。最初はお互いに違うコンビで組んでいたが、卒業時に「ギンヤンマ」としてコンビを結成した。
途中2019年に現オーパーツのゼンツが加わり、トリオで「マンモス南口店」を結成。しかし、それも半年で解散、一旦バラバラに。ゼンツがいたことで、誠と愛はお互いに言いたいことを我慢していたことに気がついた。2019年「ヨネダ2000」として再出発したときには、遠慮無くお互いの意見が言えるようになっていた。
しかし、最初から今のスタイルが認められていたワケではない。担当の作家からはダメだしばかりされていたという。愛は否定されても動じないタイプだが、誠は気にするタイプ。必死に作家に認められようとネタを寄せてみたが、「全然寄せられていない」とさらに怒られていた。
ボケとツッコミこそがお笑いだとして、愛は無理に突っ込もうとする。しかし、元々日頃から突っ込むタイプじゃない。さらに、長いセリフも覚えられない。そもそも誠が作るネタの世界観自体がぶっ飛んでいるため、ボケやツッコミが成立しない。
お互いに無理しているのを1つずつ辞めていったら、今のスタイルになった。「ボケとその優しい友達」というヨネダ2000独自の笑いが生まれた。「演技力がないからコントは無理」と思っていたが、スタイルが確立すると、怖い物なしに。コントにも挑戦できるようになった。
ネタ出しというと、ノートにせっせと書き出すように見えるが、誠は元々文章を書くよりも感覚型。一生懸命頭の中でこねくり返した構想は形にならず、パッと閃いた断片を愛の元へ持って行き、笑ったものだけを膨らませるという。「無理しない」「愛が笑うか」がネタ作りのポイントだった。
夢は全人類を笑わせること、笑いは国境を超えるか?
M-1にて、志らくはヨネダ2000に対し「女を武器にしていないのがいい」とも語っていた。
M-1やTHE Wに出場する多くの女芸人たちは、女を武器に……とは言えないまでも、どこか女性ならではのネタだった。それに対してヨネダのネタは性別、どころか、もはや言葉を超えている。
「女性らしいネタを作りなさい」と作家に指導されたこともあったが、無理だった。
「THE W」をみていたナイツ塙も「子どもが一番笑っていた」と自身のYouTubeで語っていた。
めざすは「世界的・変なおじさん」と語るヨネダ2000なら、楽々とジャンルの壁も国境も超え、世界を笑わせてくれるかもしれない。
(文 たいらひとし)