
柄本時生が本当にかわいいジュリエットに見えてきてしまった。そんなありえない思いを抱いてしまったのが、上演中の舞台「泣くロミオと怒るジュリエット」。シェークスピアの名作悲劇「ロミオとジュリエット」をベースに、作・演出の鄭義信が戦後間もない関西の港町を舞台に、大阪弁が飛び交う作品に大胆に翻案。しかも、役名は大半はそのままに、ジュリエットに柄本、兄の内縁の妻ソフィアに八嶋智人がふんし、女優は出てこない、オールメール(すべて男性)という異色の舞台だ。2020年に初演されたが、当時はコロナ禍とあって、東京公演の後半は休止となり、続く大阪公演は全公演が中止となった。
満を持して、5年ぶりの再演となったが、舞台から発散される熱量は初演に劣らなかった。桐山照史演じるロミオは、かつては仲間たちと暴れ回り、荒んだ生活を送っていたが、今は更生し、小さな屋台を引っ張っている。唯一の気晴らしだったダンスパーティーでジュリエットと出会い、その恋に明日への希望を見いだすものの、仲間とジュリエットの兄との決闘で、すべてが暗転する。戦争、差別、格差、貧困という理不尽さに「泣き」「怒る」2人が、悲劇に向かって一直線に突き進んでいく。
ラスト、2人の死を前にして、シェークスピアの原作では対立した両者は和解するが、こちらの舞台では争いがエスカレートしていく。今の世界、そして日本の社会を反映しているのか。桐山、柄本にとって、この舞台が代表作となるのは間違いないだろう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)