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映画界のジレンマを映す異色のサスペンス「逆火」 内田英治監督に聞く


新作「逆火」について語る内田英治監督

美談を描く映画の製作中に、ヒロインのモデルとなった女性のとんでもない実像を知ってしまったら…映画界の裏側をえぐり出すのが「逆火」(7月11日公開)だ。原案も兼ねた内田英治監督に聞いた。

「ミッドナイトスワン」「異動辞令は音楽隊!」「サイレントラブ」…毎回まったく違う題材に取り組んできた内田監督が、今回は映画の製作現場を舞台に、自身に問いかけるようなテーマを選んだ。

「映画祭に行く機会が多くて、海外の作品を見ていると実話が多いじゃないですか。で、2時間に収めるとなると、多少はいじらなくちゃいけない。その過程にはいろいろあるだろうな、と思った。社会派と言われる作品の多くは貧困を描いているけど、海外の映画祭でそれを見ているのは裕福な知識階級が多い。スクリーンと客席の間には大きなギャップがある。そんなこんなをながめているうちにこの映画を思いつきました。自分だって、こういう題材をこう描けば話題になるだろうという下心は否定できませんから。そんなジレンマは多くの映画人にあると思います。感動の娯楽化は草創期からのものですから」

劇中では、北村有起哉(50)ふんする助監督が、実話映画のモデルとなったヒロイン(円井わん)の周辺リサーチの過程で、そのイメージとは正反対の実像を知ってしまう。それを聞いても、理想家の監督(岩崎う大)は表面だけを見ようとし、製作費に四苦八苦のプロデューサー(片岡礼子)は、完成だけを望む。

「天才! たけしの元気が出るテレビ」のADから、海外放浪、「週刊プレイボーイ」の記者を経て、テレビドラマの脚本を書いた後、「ガチャポン!」(05年)で監督デビューした内田には、実は助監督経験がない。

「特に『ミッドナイトスワン』の時に感じたんですけど、助監督がするリサーチって詳細なんですよ。すごい分厚い取材資料を持ってきてくれる。僕も記者経験はありますけど、ホントにかなわない。映画の中で助監督が『もう1回聞いてくる』と何度も関係者のところに行くんですけど、あれは本当にある話。相手が警察だろうと、裏社会の人だろうと、そこまで調べなくてもいいよってことまで。北村さんが演じた役は僕が実際に目の当たりにした『助監督像』そのものなんですよ。岩崎さんのおっとりとした監督は、映画祭で見かける海外の裕福な社会派監督たちに日本の監督を加えた平均値といったところですかね」

劇中映画の原作者として「時の人」となったヒロインは、序盤は木で鼻をくくった嫌な感じのキャラクターだが、助監督の度重なる取材を受けるうちに心を開き、複雑な胸の内を明かすようになる。円井わんの謎めいた演技がこの作品のミステリー部分の核になっている。

「円井さんの役は、トランプさんの登場でグレーな部分がますます広くなり、善と悪の境目が分かりにくくなった今の象徴という感じですかね。それに、今の人たちって若いうちに何者かになろうって意識が強いじゃないですか。結果を出しているようで、その内側はまだ子どもだったり…。そこにもジレンマがあると思うんですよ」

これまでの作品では、劇的な展開を象徴する作り込んだ背景が多かったが、今回はドキュメンタリー映画のようなシンプルな風景が続く。

「本当はあまり好きではないんですけど(笑い)海でもあえて真っ青ではなく、くすんで寂れた感じとか、そういうところを選びました。そこが一番苦労したところですかね。ナチュラルなドキュメンタリータッチは好みではないのですが、それをあえてやったのが一番のチャレンジでした。いつもはポイントが分かりやすい演技をしてもらうのですが、そこも淡々とやってもらいました」

映像に関わる出発点は「天才! たけし-」のADだった。

「たけしさんの映画のファンだったんです。で、応募したら、そこはバラエティーの現場だった。やってみたらめちゃくちゃ楽しかった。当時のテレビ界は今言うといろいろ問題ありますけど(笑い)100%不可能ということはないんだ、ということを学びましたね。企画がむちゃくちゃ、絶対不可能だと思われることをみんなで成し遂げた。週4徹でしたから。あれを超える辛さはないんで…。いつかは映画も撮れるだろうと、そんな風に思えたんですよ」

映画を目指して脚本の学校に通っていた時に週刊プレイボーイの編集者に出会い、記者として招かれる。

「当時のプレイボーイは100万部超えの全盛期で、そこも楽しかった。企画、取材から編集まで1人でやるシステム。文章は徹底的に鍛えられたけど、あそこにも『無駄の美学』があった。僕がやったのは、読者アンケートゼロの映画カメラマンの企画とか(笑い)グラビアでおっさんがカメラ抱えているわけですから。そんなのもOKだったんですよ。勝手に企画を立てて好きな人にはみんな会いましたね。例えば、久石譲さんとか。『いつか映画を撮ったら、音楽お願いします』なんてお願いして…それが『サイレントラブ』でかないましたから」

その後、つてをたどって後に「VIVANT」(23年)を演出する福澤克雄と出会い、初めてドラマ脚本を書いたのが「教習所物語」(99年)。一緒に脚本を書いたのが後に「半沢直樹」(13年)を担当する八津弘幸だった。

最近になって、映画祭の特別上映で見た「踊る大捜査線 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(03年)のエンドロール・クレジットに自分の名前を発見した。

「思い出した! って。本広克行監督とはお付き合いが長いのですが、劇中劇撮ってるんです。『劇中映画 内田英治』と。あれがクレジット・デビュー、映像デビューなんですね。全然ダメでしたけど、自分の思っていることが現場ではまったくできない、ということを思い知らされた。だから、記憶も封印されていたのかもしれません。インディーズ面してるって言われるけど、実は全然インディーズじゃなくて、どメジャーなところを歩んできたんですね(笑い)」

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

◆内田英治(うちだ・えいじ) 1971年(昭46)ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。10歳で帰国。いじめにあって映画館に入り浸る毎日の中で映画の仕事を目指すようになった。「グレイトフルデッド」(14年)で海外映画祭初出品。監督・脚本の「ミッドナイトスワン」が日本アカデミー賞最優秀作品賞。

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