
千葉県警と5府県警の合同捜査本部が26日、詐欺の疑いで俳優宮島三郎容疑者(43)を逮捕したとの一報に原稿を打つ手が止まった。同容疑者を複数回、取材したことがあったからだ。
逮捕容疑は、24年10月21日から22日にかけて福井県の50代女性に「アップルギフトカード」を使うのに必要なコードを送信させ、電子マネー4万円分をだまし取った疑い。
宮島容疑者を主に取材したのは、6年前の2019年。前年に公開され、製作費300万円のインディーズ映画ながら興行収入31億円超と18年の日本映画界を席巻した「カメラを止めるな!」の、上田慎一郎監督(41)の劇場長編映画第2弾として公開された「スペシャルアクターズ」に、同容疑者は出演。公開前に、同容疑者を含む出演した俳優14人の座談会企画を、ウェブで展開したからだ。
宮島容疑者は、ロン毛でヒゲをたくわえ、黒系の服を着ており、ファーストインプレッションは“いかつい男”それしかなかった。口数も少なく、愛想も良いとは言えなかった。
座談会企画の取材の際も、ほとんど口を開かなかったが、発言を促すと、見た目と裏腹におとなしく、小さい声で遠慮がちにボソボソと話した。取材を終えると「俺なんか、取材してくれるんですね」と笑みを浮かべるなど、ルックスとのキャラクターのギャップに驚かされた。
「スペシャルアクターズ」は、18年12月にプロ、アマを問わず出演者を公募し、約1500人の中から18人が選ばれた。その多くは無名で、宮島容疑者も「闇金ウシジマくん Part2」など複数の人気映画、ドラマに出演こそしていたが、知られていない俳優の1人だった。
無名の監督と俳優が一気にブレークを果たし、俳優の何人かは大手芸能事務所に入った「カメラを止めるな!」の快進撃を受け、「スペシャルアクターズ」に出演した俳優陣からは、自分たちも「カメ止め」のように…という期待、野心が伝わってきた。
宮島容疑者は、取材の中で「自分は『カメ止め』を超えられなくても『カメ止め』以上の何かを残すことができる作品になったらいいなと思います」と意気込んでいた。19年9月に東京・丸の内ピカデリーで行われたワールドプレミア試写会では、「カメ止め」では行われなかった大規模な試写会の開催に感謝。「上田監督が、拾い上げてくれたんだと感じました。それが、うれしくて」と感無量の表情を浮かべていた。
「スペシャルアクターズ」は、19年10月18日に全国148館で公開されたが、残念ながら俳優陣が期待していたヒットには至らなかった。公開1カ月後の19年11月17日時点で上映されていたのは「カメ止め」の“聖地”と言われ、上田監督とも縁の深い、都内の池袋シネマ・ロサだけだった。同日に、同劇場で行われた舞台あいさつで、初めて客席が満席となり、俳優陣は涙した。
その舞台あいさつの壇上に、宮島容疑者は立たなかったが、後日、幾つかの映画のイベントや試写会の会場で顔を合わせる機会があった。声をかけると「あの時は、取材でお世話になりました」「頑張ります」などと笑顔で返してくれた。
現状は容疑者と報じられている段階だが、複数の報道では、詐欺グループの一員だったり、ギフトコードの管理役だったとの報道もある。ここ数年、姿を見かけなかったが、どこで道を踏み外してしまったのか…と思わずにはいられない。残念としか、言いようがない。【映画担当=村上幸将】