
悪徳警官を主人公にしたノワールものは少なくないが、「ダーティ・マネー」(30日公開)には心の機微が巧みに織り込まれていて、ワルのコンビに思わず感情移入してしまう。熱い。
「名もなき野良犬の輪舞」や「キングメーカー 大統領を作った男」の脚本家キム・ミンスが、自らの脚本で初メガホンを取った。
刑事のミョンドクは弟分のドンヒョクとともに犯罪の裏金をせしめ、小銭稼ぎをしている。妻を亡くしたミョンドクは重病の1人娘の治療費のために、ギャンブル依存症のドンヒョクは借金の穴埋めのためだ。
ミョンドク役は「野獣の血」のチョン・ウ。危機にも冷静さを失わないタフな雰囲気と娘に見せる笑顔のギャップが魅力的だ。
ドンヒョク役は「ゴールデンスランバー」のキム・デミョンで、ふっくら顔が実年齢(44)マイナス10歳くらいの設定にマッチして弟分らしいふるまいがはまっている。
ダメ男のドンヒョクにも、相思相愛の気のいい彼女がいて、どうにも憎めない。ミンス脚本は序盤から主演コンビの好感度を高めていく。そんなある日、中国マフィアが資金洗浄のために巨額の現金を密輸するという情報が入る。
横取りに成功すれば、汚い仕事から足を洗える。頭脳派ミョンドクの計画で一獲千金を狙うが、予想外の展開で銃撃戦に。現金奪取には成功したものの、派手な死傷事件の発生に広域捜査本部が動き出す。2人は逃げ切れるのか-。
現金強奪の現場となるのが巨大な港湾倉庫で、敵味方をとらえるカメラアングルに工夫がある。2人が使用するのは、押収品のポンプアクション式猟銃で、ガンアクションもひと味違う。ミンス監督が初メガホンにかけた思いが伝わってくる。
韓国のギャングたちにはそれぞれにスキがあって愛嬌(あいきょう)たっぷりに描かれ、冷酷な中国マフィアとの「色」の違いが分かりやすい。
警察側の意外な「裏」が2人の運命を左右し、スピードアップする終盤になっても先を読ませない。目が離せない。予想を微妙に裏切りながら、ラストにはホッとさせられる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)