
第78回カンヌ国際映画祭は、24日にイランのジャファール・パナヒ監督の「It Was Just an Accident」が最高賞となるパルムドールを受賞して閉幕しましたが、トランプ米大統領が開幕の1週間前に「外国で製作された映画に100%の関税を課す」と発表したことが、暗い影を落とした2週間となりました。
「ハリウッドを再び偉大にする」ことを目標に掲げるトランプ大統領ですが、いまだその具体的な内容は明らかになっておらず、業界全体が困惑状態にあります。カンヌでも、様子見の姿勢から外国語映画を買い控える動きなどもあり、華やかで活気づくはずだった祭典に水を差したと伝えられています。
記者会見などでも関税について質問が飛ぶことが多かったようですが、口火を切ったのは反トランプ派として知られるロバート・デ・ニーロでした。
13日に行われた初日の開幕セレモニーで名誉パルムドールが授与されたデ・ニーロは、「創造性に値段を付けることはできないが、関税をかけることはできるようだ。こうした攻撃は受け入れられない」とスピーチ。「芸術は真実を求め、多様性を受け入れる。だからこそ、芸術は脅威なのだ」などと話し、トランプ大統領の関税問題を厳しく批判しました。
また、最新作「Nouvelle Vague」を引っ提げて参加したリチャード・リンクレイター監督もこの問題について問われると、「実現するわけがない。だってあの人(トランプ大統領)は、1日に50回くらい話す内容を変えるから」と皮肉たっぷりにコメント。フランスは減税などの優遇措置で映画産業を守っていると称賛し、政府は映画産業の健全性を確保し、支援しているとして「アメリカも少し見習ったほうがいい」と述べています。
コンペティション部門に新作「The Phoenician Scheme」が選出されたウェス・アンダーソン監督は、「映画が関税で止められるのかな?」とジョークを交えて反応。「100%の関税なんて聞いたことがない。経済の専門家ではないが、それはつまり彼(トランプ氏)がお金を全部取ると言っているような気がする。われわれに取り分はあるのだろうか。複雑です」と、不安を滲ませていました。また、スパイク・リー監督も「答えは分からない」と述べつつ、「間違いなく人々は痛みを受けている」「どう機能するのか、私には分からない」と、言葉を濁していました。
一方で、映画祭の会長を務めるイリス・ノブロック氏も「まだ詳細は不明で、現段階では潜在的な影響を判断するのは時期尚早」としながらもこの問題に言及。「世界の映画業界が警戒感や不確実性によって麻痺状態に陥らないことを心から願っています」とコメントし、業界が萎縮するような事態は避けるべきだと警戒心を強めていました。
【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)