
ジョージ・ハリスンは「レッド・ベリーがいなかったら、ビートルズもなかった」という言葉を残している。映画の冒頭ではジャニス・ジョプリンが「最初に買ったレコードがレッド・ベリーだった」と明かしている。
伝説のミュージシャンたちにとっての「伝説の人」。その半生にスポットを当てた「ロックの礎を築いた男 レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点」が23日公開された。
学生時代にCCRの曲だと思って聞いていた「コットン・フィールズ」や「ミッドナイト・スペシャル」が、実はレッド・ベリー作だったことに改めてその存在の大きさを実感する。画家で言えばゴッホのように、その才能は死後に広く知られるようになったのだ。
語り継がれた「若き日」は、まるでお伽噺のように面白すぎる。並外れた体力の持ち主で、側道にはまった自動車を素手で持ち上げた、なんていう逸話も紹介される。
ルイジアナ州生まれのレッド・ベリーは、歓楽街のセントポールズ・ボトムで演奏活動を始めるが、モテすぎてしばしば刃傷沙汰を起こし、何度も服役したが、その度に知事に胸を打つような曲をささげ、刑期を減免されている。
収監中、その才能に注目したのが音楽研究家のジョン・ローマックスで、数百曲を録音し、釈放後は彼の手引で全国を回る「ツアー」も開催された。映画の中では子息のアラン・ローマックスらが、「黒人のレッドベリーにとって音楽が身分だった」「音楽の力で刑務所を出たただ1人の人間」などと語る。
だが、女性や酒に加えて差別を歌うレッドベリーが、あからさまに上から目線のローマックスと本音でつながるはずがなく、後にたもとを分かつことになる。
オデッタ、ピート・シーガー、B・B・キング、ジョーン・バエズといったそうそうたる面々がレッド・ベリーを語る映像も挿入される。特にハリー・ベラフォンテが「滑舌と通る声」について話すエピソードに説得力があった。
もっとも貴重なのは、レッド・ベリーの演奏風景に加え、時勢に合わせて「良き黒人」を演じたフィルムの断片だ。めいのクイーン・タイニー・ロビンソンは「当時の映画の中の叔父は偽りの姿」と証言。黒人に「今いる場所から抜け出せる」と、夢を与えた叔父の姿勢とその歌について改めて語っている。
伝説の人の61年の生涯はあまりに偉大であまりに面白い。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)