
「ウィキッド ふたりの魔女」(3月7日公開)は、03年のブロードウェイ初演以来、世界中で愛されたミュージカルの映画化だ。
「オズの魔法使い」で少女ドロシーが迷い込んだオズの国のずっと前の物語。「オズ-」ではドロシー一行をひどい目に遭わせる西の悪い魔女が、実は信念の人であり、エメラルドの都にいざなった良い魔女が実はとんでもない偽善者だったという、シニカルな視点で描かれている。
後に悪い魔女となるエルファバ(シンシア・エリヴォ)は、優しく聡明(そうめい)で魔術の能力も高いが、生まれつきの緑の肌色ゆえに疎まれ、孤独だ。後に良い魔女となるグリンダ(アリアナ・グランデ)は対照的に魔法の才能はないが、バービー人形のような外見で、自己顕示欲が強い。
そんな2人がオズの国のシズ大学で出会い、エルファバの才能に着目した魔法学の権威マダム・モリブル(ミシェル・ヨー)の指示で相部屋となる。
水と油の2人の間に芽生える不思議な友情。オズの魔法使い(ジェフ・ゴールドブラム)の正体と陰謀…。「クレイジー・リッチ!」(18年)のジョン・M・チュウ監督は、ミュージカルの大仕掛けの中に、ありがちな誤解を際立たせ、差別や分断を浮き彫りにしていく。
中盤の舞踏会で、エルファバの指の動きから始まるグリンダとの「友情の芽生え」の描写が心をくすぐる。トニー賞でミュージカル主演女優賞を得ているエリヴァも、4オクターブの音域を持つグランデも折り紙付きの力量でミュージカルシーンを盛り上げる。それぞれがしっかりとキャラクターを作り込んでいてドラマ部分でも微妙な心情の変化が伝わってくる。
「嫌なヤツ」のはずのグリンダにもところどころで優しさがのぞき、時を追って憎めなくなる。グランデの生来の明るさが生かされる。
終盤のスペクタルにも見応えがあり、最後の最後にエルファバの魔力がマックスで発揮され、思いっきり留飲が下がる。
2人に絡むウィンキーの王子にふんしたジョナサン・ベイリーが、巧みな「軽薄演技」で、タイトな作品の息抜き的な存在になっている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)