大相撲の元大関でタレント、イベントプロデューサーの小錦八十吉(60)が23日、神奈川・湘南鎌倉総合病院で記者会見し、腎不全による腎臓移植手術を受けたと公表した。4日に妻千絵さん(48)から提供を受け、6時間にも及ぶ手術を経てこの日、退院した。経過は良好で「アンバサダーとして腎臓移植手術のことを伝えていきたい。99・9歳まで生きるよ」と笑顔を見せた。
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小錦は8年前から腎臓疾患があり、今年8月に移植可能かどうか1週間かけて精密検査。手術を決断し、先月20日から入院していた。この日の退院会見にはサンタクロースの衣装で現れ、「皆さんメリークリスマス。今回、素晴らしいクリスマスを迎えられる。嫁の腎臓をもらって、コニちゃんが99・9歳まで生きることができるのを知ってもらいたい」と笑顔で、無事に手術を終えたことを報告した。
妻千絵さんから腎臓の提供を受けることには、葛藤もあった。「なかなか受け入れられなかった。腎臓が悪くても、倒れたことがなかったから」。10年以上前から減量した体重は150キロ台。6月に米シカゴで公演を行った際に具合が悪くなり、「その前のテネシー公演から具合が悪かった。『飛行機に乗ったら死ぬよ』って言われて、心臓が15%くらいしか機能してなかった」と、現地で10日間入院したことで迷いは消えた。「今の仕事は、ほとんど海外での相撲ショー。人工透析を受けるようになったら、仕事ができなくなる。ずっと嫁から移植手術をやれと言われてた。“そばにいる”じゃなく、“中にいる”。嫁に感謝です。ラブをたっぷりあげよう」と感慨に浸った。
ハワイの後輩、元横綱武蔵丸の武蔵川親方(53)も17年に、同じく夫人からの提供で腎臓移植手術に成功していることが励みになった。千絵さんは「最初は不安が大きかったんですが、武蔵川親方がこちらの田辺先生に手術してもらっていた。ずっと相談して、話を聞いてもらった。それがなかったら、やっていなかったかも」。千絵さんの腎臓摘出は腹腔(ふくくう)鏡手術で3時間を要したが、ほとんど出血はなかったという。
小錦は「アンバサダーになったつもりで。日本で腎臓移植手術ができるのは5カ所くらい」と自身の経験を元に、広く知ってもらうことを願った。今年4月には、ハワイの後輩の元横綱曙太郎さんが54歳の若さで亡くなった。「相撲取りは病気やけががある。僕は痛み止めをメチャメチャ打っていて、腎臓にきた。苦しんでいる人に手術をした方がいいと伝えたい」。
幸せいっぱいで、今日24日のクリスマスイブを迎える。小錦は「今年はシークレットでプレゼントを買いに行けないね」。千絵さんは「私は腎臓をあげちゃっているから」と笑った。【小谷野俊哉】
◆小錦八十吉(こにしき・やそきち)1963年(昭38)12月31日、米ハワイ州オアフ島生まれ。スカウトされて高砂部屋で82年名古屋場所初土俵。87年夏場所後に大関昇進。89年九州場所で初優勝。両膝痛などで、93年九州場所で大関から陥落。94年2月に日本国籍を取得し、97年に引退。幕内優勝3回、通算733勝。98年9月に日本相撲協会を退職してタレント転身、KONISHIKIの芸名で活躍。184センチ、体重は歴代最高284キロを記録。家族は妻で歌手、フラダンサーの小錦千絵さん(48)。
○…会見には執刀した田辺一成院長補佐と大久保恵太腎移植外科部長も同席した。田辺医師は「日本では亡くなった方からの腎臓の提供が少ない。90%が生体、親族などから。技術は高くて、ほとんどの方が10年、20年と腎臓を移植してから生きられる。この会見で移植の大きな利点を知ってもらえて、増えればいいと思います」と話した。また、「元相撲、格闘技など体の大きい方でも安心して手術を受けていただける」とした。大久保医師は「小錦さんは長期の肥満からくる肥満性腎症という診断。体が大きくて、心臓の機能がよくないので慎重に手術を行って、今日退院となりました。今後は免疫力の薬を飲み続けなければなりませんが、健康的な生活を送れます」と話した。
○…小錦は19年から「相撲を世界に伝えるため」に、相撲ショーの海外公演をプロデュースしている。「去年は23公演やった。いい文化を外国で知ってもらわなければ。簡単に死ねない。まだまだやりますよ」。来年10月には大相撲のロンドン公演がある。「僕も91年の時は参加したから、もしかしたら関わるかも。一応、こう見えても英語もしゃべれるから(笑い)。僕が亡くなった時に『小錦は日本人』と言ってもらえるような覚悟でやっております」と話した。
◆腎移植を経験した著名人 演歌歌手の松原のぶえ(63)が09年5月、腎不全のため実弟から生体腎移植手術を受けた。幼少期から腎臓が弱く、手術前年には週3回通院して人工透析を受けていた。また、元電撃ネットワークのリーダーで今年1月に72歳で亡くなった南部虎弾さんは19年5月、糖尿病が原因で生体腎移植を受けた。ドナーは夫人。血液型が異なり、さらに南部が数万人に1人といわれるRHマイナスだったことから何度も適合検査を行った。スポーツ界では、陸上の男子110メートル障害世界記録保持者で、12年ロンドン五輪金メダリストのアリス・メリット(39)が、15年に家族から提供を受けて移植手術を受けている。