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水害時に「船のように浮く住宅」が凄いらしい。どれだけ凄いのか公開検証実験に参加してみた!


2020年7月の熊本県を中心に各地で発生した集中豪雨(令和2年7月豪雨)や、2019年に関東甲信越地方で猛威を振るった台風19号などをはじめ、これまでに経験したことのないような大水害に毎年のように見舞われている日本。


水害対策待ったなしの状況のなか、先日、国立研究開発法人防災科学技術研究所(茨城県つくば市)と株式会社一条工務店(以下 一条工務店)が水害に強い「耐水害住宅」の公開実験を行い、同研究所内の大型降雨実験施設にて水位3mという状態を再現。水害対策を講じた家と講じていない家を比較検証しました。


この実験は、2019年から官民共同の水害被害軽減プロジェクトとして開始されたのもので、昨年10月にはゲリラ豪雨や洪水(水位1.5m)による住宅の「床下浸水」や「床上浸水」を防止する実験を実施。その際に、水位約1.3mを超えると建物が浮きはじめることが明らかとなり、今回の比較実験では、特に「耐水害住宅」において建物が浮上してから元の位置に戻るまでの一連の挙動を検証したほか、住宅の1階天井の高さ程度である水位3m時の住宅および内部への浸水状況を観察しました。



浸水・逆流・水没・浮力の4つの危険を防止


新しい「耐水害住宅」は、建物自体をあえて水に浮かすことで水没と水圧から免れる船のような構造をしており、浮上時には流失を防ぐために、建物は敷地内の四隅に建てられたポールに専用ダンパー付きの「係留装置」を介して繋ぎとめられています。この「係留装置」をはじめ、水害後の素早い生活復旧を可能にする耐水害装置が以下11ヵ所に施されています。



写真左)「一般仕様住宅」、右)「耐水害住宅」。同じ間取りの両棟だが、「耐水害住宅」は浮上しているためベランダの位置が異なって見える。


浸水: 水が浸入してくると弁が浮いてフタをする「フロート弁付き床下換気口」を採用。専用の透湿防水シートで外壁面を包み込むように施工するなどの「壁面防水処理」済み。隙間をなくす「中空パッキン」や「樹脂サッシ」で、建物本体だけでなくサッシや玄関ドアの水密性を向上。さらに通常よりも玄関の鍵穴を高い位置に設置。窓には、5mm厚の強化ガラス、Low-Eガラス、防犯合わせガラスの3枚で水圧対策を施し漂流物が当たっても簡単に割れない仕組みに設計。


逆流: トイレやキッチン、浴槽、洗面台などからの水の浸入・逆流を防ぐため排水管に「逆流防止弁」を採用。


水没: 外部電気設備を高所に設置し水没を防止。建物と一体となった独自設計の架台で「エアコン室外機」を守るほか、対水害用に改良した「エコキュート」でライフラインを確保。


浮力: 一定の水位に達した際に浮上防止策として、水をあえて床下に引き込む「注水ダクト」を設置した【スタンダードタイプ】。もしくは、浮力に逆らわずに安全に建物を水に浮かせ流失を防ぐ「係留装置」と、浮上する際に、地中の基礎ごと引き抜かれないよう、ベタ基礎が地盤側と建物側とに分離する構造になっており、水が引いた後にフラットな状態で着地できる「二重基礎構造」を採用した【浮上タイプ】の2タイプを用意。


実験経過


実験では、2700㎥の大型水槽に500㎥×3基の貯水プールから水を流し込み、開始91分後には水位が3 mに到達。また、河川氾濫などの洪水を再現するために最大で秒速約3mの水流を発生させ、「耐水害住宅」側には台風等を想定した毎秒約10mの風が建物正面にあたるように設定されました。おおまかな実験経過は以下の通りです。


一般仕様住宅:


水位16cmで床下換気口からの床下浸水が始まる。


水位60 cm~70 cmで玄関から水が入り床上浸水が始まる。


この時点で室外機はほぼ水没。


水位1m手前くらいで照明が消える。


水位1.2mくらいで排水管から逆流した水で洗濯機が浮いて倒れる。


水位2m~、室内のソファや家具類は完全に浮く。


水位2.5mくらいで1階は天井まで水が流入し完全に水没。


水位2.7mで水が2階まで到達。


写真)天井近くまで浸水し家具やソファが浮いてしまった「一般仕様住宅」の1階リビング。



耐水害住宅:


注水開始33分後、水位は85 cmに到達。1階床下(床高さ82.8cm)が水没したが、床下換気口に取り付けられた「フロート弁」が床下浸水を防ぐ。    


水位1.4~1.5mで家が基礎ごと5cmくらい浮き始める。それにより排水管が自動的に外れる。    


水位1.7mで給水管も外れ、建物が完全に浮上する。    


水位1.9m~2mで建物が波打つように動くが「係留装置」が繋ぎ止めている。この時、室外機は建物に付いているために一緒に浮上し水没していない。


トリプルガラスのため秒速3mの水流でも割れずにいる。   


水位3mに到達。建物が浮いているので水面の位置は水位1.7m時点とさほど変わらない。   


水位3mに達しても室内への浸水はなし。室内は通常時のまま家が浮き続ける。



写真)「耐水害住宅」の床下換気口(外)。



写真)「耐水害住宅」の床下換気口(内)。「フロート弁」が床下浸水を防いでいる。



写真)水が押し寄せる「耐水害住宅」のガラス窓。割れずに部屋への浸水もない様子が分かる。



写真)「耐水害住宅」の玄関。鍵穴が高い位置にあり水に浸かるのをまぬがれている。



写真)「耐水害住宅」の室内。水位3mでも変化なし。写真左の室外機は建物と一緒に浮上し水没していない。


着地後と漂流物の対策


浮上する「耐水害住宅」を開発した経緯について、一条工務店の萩原浩氏は、「浮かせないために建物を重くすると耐震性に問題がでてくるほか、地盤沈下のリスクも考えなければならない。さらに、水位5mに達した場合は2階部分も水没してしまうため、総合的に判断して木造住宅を船のような構造にして浮上させることが、現時点で最も安全でコストのかからない方法と考える」と説明します。


着地時は、係留装置が元の位置に戻るように働きかけ、ズレが生じたとしても最大3cmほどの範囲に収まるように設計されています。


また、建物が浮いた際に基礎と基礎の間に生まれた空間に漂流物が入り込み、建物に三点荷重がかかった場合にも損傷が出ないよう、建築基準法の2倍レベルの耐震性を施し、漂流物を回収する際には、ジャッキを入れて簡単に建物を持ち上げることができるよう対策が講じられているそうです。



写真)水位3m。建物は地面から1.44m(低位置)~1.67m(高位置)で浮いた状態に。玄関アプローチと建物が一体となっているため、その重さでやや左手前方向に傾いているのがわかる(傾斜角は約2度)。



写真)「係留装置」の専用ダンパー。装置が建物に引かれて上昇した高さは最大で1.5m。建物に引っ張られてリングが上昇した際の力は約1tになった。写真右奥に見えるのは「排水管」で、建物浮上時には自動的に外れ破損しないようになっている。


施工金額にプラス100万で可能


一条工務店では今年9月から「耐水害住宅」の発売を開始。すでに130件ほどの注文があり、新築を引き渡されて半年もしないうちに浸水する被害が起こるケースもあり、床上浸水を防ぐ家を望む声は多いそうです。気になる価格は、35坪ぐらいの家であれば施工金額に100万円前後を上乗せすれば可能。また、床上浸水のみを抑えた浮上しない【スタンダードタイプ】ならば、40万円ほど上乗せすれば建てることができます。


萩原氏は、東日本大震災時に支払われた保険金額よりも、2019年の1年間で水害に支払われた保険金額の方が上回った事例を挙げ、「水害は地震以上に避けられない災害になる可能性がある。産官学が一体となって開発に取り組み、安心した技術を提供する必要がある」とし、今後、一条工務店ではオープンにできる技術は公開し、業界全体で水害対策に取り組んでいきたいとしています。また、国立研究開発法人防災科学技術研究所の酒井直樹氏は、今回の実験について「非常に良い結果になった。家が浮上する姿を見ていただけたと同時に、水害時における家の中の変化など、災害を身近に感じていただけたのではないか」とコメント。在宅避難の参考にもしていただきたいと結びました。


今回の公開検証実験および「耐水害住宅」の詳細は、https://www.ichijo.co.jp/lp/taisuigai/ にて公開中です。





新住宅ジャーナル VOL.132

Fujisan.co.jpより


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