「75歳以上のドライバーは認知機能検査を受ける」とする改正道路交通法が施行されたのは2017年3月。それから同年末までに、免許更新などで検査を受けた人は全国で172万5292人だった。そのうち、4万6911人が認知症のおそれがある第1分類と判定された。(*警察庁2月発表)
第1分類は「認知症のおそれがある」
第2分類は「認知機能低下のおそれ」
第3分類は「認知機能低下のおそれなし」
と判定される。
第1分類となったドライバーは医師の診断を受けることとなるが、今回、診断待ちなどを除く約2万5千人の内、免許継続が認められたのは、9841人(39.6%)。また、危険と判断した人など、免許を更新しなかったのは、2571人(10.4%)、自主返納は、1万1053人(44.5%)だった。運転NGは、なんと6割にもなったのだ。
警察庁によると、2017年末の75歳以上の運転免許保有者は約540万人。次の免許更新では必ず検査を受けることになるが、この中に同じ数字の運転NG者がいると思うとかなり怖い数字だ。
家族が気づいてあげなきゃ
私の父は、今年で82歳になる。実は、認知症の一歩手前の「健忘症」と診断されていて、言い換えれば軽い認知症だ。76才の時。言動がおかしい兆候は前々からあったのだが、物忘れの域を超え、あったことを記憶していないケースが増えてきた。本人も自覚があったので検査を受けたところ、そんな診断結果が出た。
専門書などを読んで情報を集めてみたが、一般的に認知症は薬で進行を遅らせることはできるが、完全に治すことは難しい、ほぼムリなのだそうだ。ゆっくりひどくなっていく症状と付き合っていくしかないようだ。
父は昔気質の人間。無類の面倒くさがり屋で、動くのが嫌い、人の指図を受けるのが嫌い、気位の高い、一言でいうと扱い辛い人間である。それでも用事があれば車を運転しなければならない。若い頃から車の運転は上手で、事故はもちろん、車を擦ることすら経験がなかった。
ところが、73才頃、アクセルとブレーキを踏み間違えて駐車場の金網に突進してしまった。幸い、破損の程度は軽く、身体にケガなどはなかった。その時は「年だから」程度で済ませたが、この頃から少しずつ今までにないミスが目立つようになってきた。
道を間違える、行き先を間違える、行き先を忘れる、車を駐車した場所を忘れる・・・
よく助手席に乗っていた母は、年齢的な物忘れか、それとも本当におかしいのか、比べるものがなく情報もなかったので、判断がつかなかったらしい。しかも、かかりつけ医に何度か聞いてみたが、いつも「年だからそういうこともある」と笑い飛ばされるので、「そんなものなのか」と放置していたそうだ。これがまずかった。
ある時、電話で母と話すと、数年前から運転中にこういうミスが多い、と聞かされ、すぐに検査へ行くよう促した。認知症が疑われる高齢ドライバーによる事故が相次いでいたからだ。
検査の結果、「健忘症」と診断されたが、その病気の知識がまだ浅かった私は、車を安全に運転させることも脳トレの一環だと考えて、父の好きな釣りに誘った。早朝で車も少なく、高速も通るので、運転させても問題はないだろうと思った。というか、数日に一度はハンドルを握っているのである。
助手席に乗って、カーナビ通りに道を支持したのだが、普段あまり通らない道を行ったためか、まず赤信号を無視しようとして慌てて注意した。高速道路は普通に運転していたのだが、この出口だと支持したとき、ハンドルを左へ少し切って側道に入るかと思いきや、急にボーっとして手を止めた。ブレーキも踏まない。
「危ない!」と思ってハンドルを横からつかみ、側道レーンへ導いた。危険を感じていなかったようだった。そして「ここで降りるんやったか?」と聞いてきた。
父はカーナビを操作できない。いつも釣り場へ行く時の降り口はまだ先で、カーナビが示した降り口とは違っていた。だから記憶との違いに混乱し、考えていたようだった。あのまま気付くのが遅れていたら確実にフェンスに激突していた。
私は決断した。後日、「危ないから運転免許証を返納しよう」と話した。父は渋った。「年寄り扱いをするな」「運転には自信がある」高速での出来事は憶えていなかった。でも、検査結果で障害があることは自覚していた。私は、意地でも運転させるわけにはいかないと思い、こう言った。
「自分一人で事故を起こして死ぬのはかまわん。でも、助手席に母さんを乗せていれば死なせる可能性が高い。死ぬのが家族だけならマシだが、他人を巻き込んで不幸にさせたら取り返しがつかない。大勢の人が悲しむことになってもいいのか? 一番みんな幸せなのは車を運転しないことなんだよ」
少し考えて「・・・そうだな」といって免許証を手渡してくれた。父は、翌年に免許更新だったが、更新テストも受けず78才で自主返納した。法規制が始まる前のことだ。
家族が説得すべき
高速道路の逆走、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故、自覚もなく暴走し人をひいてしまう痛ましい事故など、高齢者ドライバーによる事故が急増している。本当にミスなら二度目は気をつけられるが、認知症は二度三度と同じような過ちを平気で繰り返す可能性がある。
去年、おじいさんが運転する車が歩道を暴走し歩行者数人をはねた。おじいさんの家族の中から、「運転をやめてと言っていたのだが聞かなかった」というコメントがあった。こんなふうに、いつか事故を起こしそうだと周囲が案じていて本当に起こったなら、これは事故ではなく事件といえるかもしれない。
恐ろしいのは、「ドライバー自身がおかしな運転をしている自覚がないこと」。
真逆で、プライドが邪魔して「おかしな運転をする自覚があっても、自分からは言わないこと」。
だから、周囲の人間が指摘しなければ解決は難しいのだ。普段をよく知る家族や知人が、“最近、物忘れが異常”と感じたら。そして、車を運転していて“危ないことが多い”と感じたら、その人がどんなにわからず屋でわがままで頑固で面倒臭い人間でも、勇気を持って相談し検査を受けるよう促して欲しい。
そしてダメだと確信したら、心を鬼にして、強引にでも免許証を返納させ、運転をやめさせる。何か起こってしまってからでは遅いのだ。
返納者には特典
車がなくなると生活がうまくいかない、という言い分はわかる。そんな中、全国の県や市町村などで、免許返納者が特典サービスを受けられる動きが活性化している。
【高齢運転者支援サイト】
http://www.zensiren.or.jp/kourei/return/relist.html
こういう情報は、高齢者には届きにくい。だから、ネット世代の子供や孫が、おじいちゃん、おばあちゃんの運転に支障ないか、危険な場合はどういう策を取るのが良いのか、一緒に考え助けてあげて欲しい。そして、車の運転を辞める勇気と、辞めさせる勇気を持って欲しい。